言葉がつまる病気とは|吃音症の原因から日常の対処法まで
言葉がつまる症状の正体とは
言葉がつまる、あるいはスムーズに話せないという症状は、医学的には吃音症(きつおんしょう)や発話障害として分類されます。この症状は単なる「緊張」や「性格」の問題ではなく、脳の言語処理機能や発話のタイミング調整に関わる神経学的な特性が背景にあることが、近年の研究で明らかになってきました。
吃音症は、日本国内では人口の約1%、つまり100人に1人程度が抱えているとされ、決してまれな症状ではありません。幼児期に発症するケースが最も多く、5歳までに発症する子どもは全体の約5%に上ります。そのうち約8割は自然に改善していきますが、残りの約2割は成人期まで症状が持続するとされています。
ただし、言葉がつまる症状すべてが吃音症とは限りません。脳卒中や脳腫瘍、パーキンソン病などの神経疾患、あるいは失語症や構音障害といった別の疾患が原因となっているケースもあります。そのため、症状が急に現れた場合や、ろれつが回らない・顔の麻痺を伴う場合には、速やかに医療機関を受診することが重要です。
吃音症の主な症状と特徴
吃音症の症状は、大きく分けて3つのタイプに分類されます。それぞれに異なる特徴があり、一人の人が複数のタイプを併せ持つこともあります。
✓ 連発(語音の繰り返し)
連発は、「か、か、か、鞄」「わ、わ、わたし」のように、音の最初の部分を何度も繰り返してしまう症状です。本人は一度で発音しようとしているにもかかわらず、意図せず同じ音が複数回出てしまいます。子どもの吃音で最も多く見られるタイプで、周囲からも比較的わかりやすい症状といえます。
連発は、言葉を発する際の呼吸と発声のタイミングがうまく合わないことで起こるとされています。話し始めの緊張が高まる場面や、興奮している時、急いで話そうとする時などに顕著に現れやすい傾向があります。
✓ 伸発(語音の引き伸ばし)
伸発は、「かーーーばん」「わーーーたし」のように、音を不自然に長く引き伸ばしてしまう症状です。連発と同様、話し始めの音に現れることが多く、本人としては通常の長さで発音しようとしているのですが、コントロールがきかず伸びてしまいます。
伸発は、声帯の緊張が過度に高まり、音を切り替えるタイミングを脳がうまく指示できない状態と考えられています。連発から伸発へと症状が変化していくケースもあり、吃音の進展パターンの一つとされています。
✓ 難発(語音のブロック)
難発は、言葉を発しようとしても最初の音がまったく出てこない、あるいは喉が詰まったように感じて話せない状態を指します。「…………かばん」のように、沈黙の後にようやく言葉が出るのが特徴です。この症状は、連発や伸発と比べて外見からはわかりにくく、本人だけが強い苦痛を感じている場合も多くあります。
難発は成人の吃音者に多く見られ、長年の吃音経験の中で「この言葉は言えない」という予期不安が蓄積した結果、発話そのものが極度に困難になった状態ともいえます。呼吸が止まる、喉や顔の筋肉が硬直するといった身体症状を伴うこともあり、当事者にとっては最も辛いタイプとされています。
吃音症が起こる原因
吃音症の原因については、長年にわたり様々な研究が行われてきました。かつては親の育て方や本人の性格が原因とされることもありましたが、現在ではそれらは誤りであることがわかっています。吃音症は大きく「発達性吃音」と「獲得性吃音」の2つに分類され、それぞれ異なるメカニズムで生じます。
✓ 発達性吃音の原因
発達性吃音は、幼児期から学童期にかけて発症する吃音で、吃音全体の約90%以上を占めます。最新の研究により、遺伝的要因が関与していることが明らかになっており、特定の遺伝子変異が吃音の発症リスクを高めることがわかっています。
九州大学の菊池良和医師らの研究チームは、吃音者の脳画像研究から、言語処理に関わる脳領域の活動パターンに特徴的な違いがあることを発見しました。具体的には、話し始めのタイミングを調整する脳の神経回路に微細な差異があり、これが発話の流暢性に影響を与えていると考えられています。
重要なのは、発達性吃音は親の接し方や教育方針、本人の性格とは無関係であるという点です。「厳しく叱りすぎたから」「過保護に育てたから」といった罪悪感を持つ保護者の方もいらっしゃいますが、これらは吃音の原因ではありません。吃音は生まれつきの脳の特性であり、誰の責任でもないのです。
✓ 獲得性吃音の原因
獲得性吃音は、それまで流暢に話せていた人が、何らかのきっかけで突然吃音症状を呈するようになる状態です。獲得性吃音はさらに「獲得性神経原性吃音」と「獲得性心因性吃音」に分類されます。
獲得性神経原性吃音は、脳卒中、脳外傷、脳腫瘍、パーキンソン病などの神経疾患が原因で起こります。脳の言語中枢や運動制御に関わる領域が損傷を受けることで、発話のタイミング調整がうまくいかなくなるのです。このタイプの吃音は、発症が突然である点、大人になってから初めて症状が現れる点が特徴です。
一方、獲得性心因性吃音は、強い心理的ストレスやトラウマ体験をきっかけに発症します。重大な事故、災害体験、精神的ショックなどが引き金となることが知られています。ただし、この場合も単なる「気の持ちよう」ではなく、強いストレスによって脳の言語処理機能に一時的な変調が生じていると考えられています。
発達障害と吃音症の関連性
近年の研究により、吃音症と発達障害には一定の関連性があることがわかってきました。特に注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちの中には、吃音症状を併せ持つケースが少なくありません。
ADHDのある子どもは、思考のスピードに言葉がついていかず、話すことに焦りを感じやすい傾向があります。また、衝動性が高いことで、十分に言葉を整理する前に話し始めてしまい、結果として吃音様の症状が現れることがあります。これは厳密には吃音症とは異なるメカニズムですが、表面的には似た症状として現れるのです。
ASDのある子どもの場合、言語発達の遅れや、話すことへの不安が吃音症状として表出することがあります。特に場面緘黙や選択性緘黙を伴う場合、特定の状況下でのみ言葉が詰まるという形で現れることもあります。
吃音症の診断基準と受診先
吃音症が疑われる場合、どこで診断を受けるべきか迷う方も多いでしょう。吃音症の診断は、主に耳鼻咽喉科、言語聴覚士のいるリハビリテーション科、児童精神科、小児科などで行われます。
✓ DSM-5による診断基準
吃音症の診断には、アメリカ精神医学会が定めるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)の基準が広く用いられています。DSM-5では、吃音症を「小児期発症流暢症/小児期発症流暢障害」として定義し、以下の条件を満たす場合に診断されます。
- ✓ 音や音節の繰り返し、音の延長、ブロックなどの症状が頻繁に現れる
- ✓ 症状が効果的なコミュニケーションを妨げている
- ✓ 症状が幼児期から学童期早期に始まっている(発達性吃音の場合)
- ✓ 他の医学的疾患や神経疾患では説明できない
✓ 診断の際に行われる評価
医療機関では、まず問診によって症状が現れた時期、頻度、悪化する状況などを詳しく聞き取ります。その上で、実際の会話場面を観察し、吃音の種類や重症度を評価します。言語聴覚士による専門的な検査では、音読課題や自由会話を通じて、吃音症状の詳細な分析が行われます。
また、吃音症状だけでなく、発話に対する不安や回避行動、日常生活への影響なども評価の対象となります。学校での困難さ、友人関係への影響、本人の心理的苦痛の程度なども含めて、総合的に判断されるのです。
吃音症の治療方法
現時点では、吃音症を完全に「治す」特効薬や確立された治療法は存在しません。しかし、適切な支援やトレーニングによって、症状を軽減し、より快適にコミュニケーションを取ることは十分に可能です。
✓ 言語聴覚療法(スピーチセラピー)
最も一般的な治療法が、言語聴覚士による言語聴覚療法です。この療法では、ゆっくり話す練習、リズムをつけて話す練習、呼吸法の訓練などが行われます。特に子どもの場合、遊びを取り入れながら楽しく発話練習を行うことで、話すことへの不安を軽減していきます。
流暢性形成法と呼ばれるアプローチでは、話し方そのものを変えることを目指します。ゆっくりと滑らかに話す技術を段階的に習得し、日常会話でも自然に使えるよう練習を重ねていくのです。
✓ 認知行動療法
成人の吃音者に対しては、認知行動療法が有効な場合があります。吃音そのものを直接変えることよりも、吃音に対する不安や恐怖、回避行動といった心理的側面にアプローチする方法です。
「吃音があっても伝えたいことは伝えられる」という認識を持つことで、発話場面での過度な緊張を和らげることができます。実際、吃音症状の重症度よりも、それに対する本人の受け止め方が、生活の質により大きく影響することがわかっています。
✓ 環境調整と周囲の理解
吃音症のある人にとって、周囲の理解と適切な環境は極めて重要です。学校や職場で「ゆっくり話していい」という雰囲気があるだけで、症状が大きく軽減することもあります。
家族や教師、同僚ができる配慮としては、焦らせない、話を最後まで聞く、言葉を先回りして補完しない、吃音を指摘したり訂正したりしない、といったことが挙げられます。吃音は本人の努力不足ではないという理解を共有することが、何より大切なのです。
年齢別に変化する吃音の特徴
吃音症の症状や影響は、年齢によって大きく変化していきます。それぞれのライフステージで抱える課題や必要な支援も異なるため、年齢に応じた理解が重要です。
✓ 幼児期(2~6歳)
吃音の多くはこの時期に発症します。幼児期の吃音は、連発が中心で、本人は自分が吃音であることをほとんど意識していません。話すこと自体は楽しく、吃音があっても積極的にコミュニケーションを取ろうとするのが特徴です。
この時期に重要なのは、吃音を過度に心配しすぎないことです。「もっとゆっくり話しなさい」「落ち着いて」といった指摘は、かえって子どもに話すことへの不安を植え付けてしまいます。自然に話を聞き、コミュニケーションを楽しむ姿勢を保つことが、その後の経過に良い影響を与えます。
✓ 学童期(7~12歳)
小学校に入ると、吃音がからかいの対象になることがあり、本人も自分の吃音を強く意識し始めます。症状は連発から伸発、難発へと変化していくことが多く、話すことへの不安や回避行動が見られるようになります。
音読や発表の場面で困難を感じやすく、学校生活への適応に課題が生じることもあります。この時期には、担任教師や学校カウンセラーと連携し、配慮ある環境を整えることが重要です。また、吃音があっても自信を持てる分野を見つけ、自己肯定感を育てることが、その後の人格形成に大きく影響します。
✓ 思春期(13~18歳)
思春期は、吃音による心理的負担が最も大きくなる時期です。他者からどう見られるかを強く意識するようになり、吃音のために自己評価が低下したり、対人関係を避けたりする傾向が強まります。
進路選択の場面でも、「電話応対がある仕事は無理」「人前で話す職業は避けたい」と、吃音を理由に選択肢を狭めてしまうことがあります。しかし実際には、吃音がありながらも様々な分野で活躍している人は多く存在します。ロールモデルとの出会いや、同じ悩みを持つ仲間とのつながりが、大きな励みとなる時期でもあります。
✓ 成人期(19歳以降)
成人になると、吃音症状そのものは軽減する人も多くいます。長年の経験から、自分なりの対処法を身につけているためです。しかし、職場での電話応対、プレゼンテーション、面接といった場面では依然として困難を感じることがあります。
成人期の吃音者にとって重要なのは、吃音を隠すことに労力を費やすよりも、効果的にコミュニケーションを取る方法を見つけることです。職場で吃音をオープンにすることで、周囲の理解を得られ、過度な緊張から解放されるケースも多くあります。
日常生活での具体的な対処法
吃音症と上手く付き合いながら日常生活を送るために、当事者自身ができる工夫や対処法があります。これらは症状を完全になくすものではありませんが、コミュニケーションの質を高め、心理的負担を軽減する効果があります。
✓ 「伝える」ことに意識を向ける
吃音のある人の多くが、「流暢に話すこと」に過度に意識を向けてしまいます。しかし、コミュニケーションの本質は「伝えたい内容を相手に届けること」であり、流暢さはその手段の一つに過ぎません。
話し方ではなく、話の内容や相手の反応に意識を向けることで、不思議と吃音症状が軽減することがあります。また、ジェスチャーや表情、メモやホワイトボードなど、言葉以外のコミュニケーション手段を併用することも有効です。
✓ リラックスできる環境を作る
吃音症状は、緊張や不安が高まると悪化する傾向があります。深呼吸や軽いストレッチ、十分な睡眠といった基本的なセルフケアが、吃音の軽減につながることもあります。
また、吃音があってもリラックスして話せる相手や場所を見つけることも大切です。そうした場所では吃音が出にくいという経験を重ねることで、「自分は話せる」という自信を取り戻すことができます。
✓ セルフヘルプグループやピアサポートの活用
同じ吃音の悩みを持つ人たちとのつながりは、心理的な支えとなります。日本には「言友会」をはじめとする吃音者のセルフヘルプグループが各地に存在し、情報交換や交流の場を提供しています。
こうした場で経験を共有することで、「自分だけではない」という安心感を得られると同時に、他者の対処法から学ぶこともできます。また、吃音があっても充実した生活を送っている先輩の姿を見ることは、将来への希望となるでしょう。
仕事における吃音症への対応
吃音症のある人にとって、就職活動や職場でのコミュニケーションは大きな課題となることがあります。しかし、適切な環境調整や工夫によって、吃音があっても十分に能力を発揮することは可能です。
✓ 職場での合理的配慮
障害者差別解消法により、企業は障害のある従業員に対して「合理的配慮」を提供することが義務付けられています。吃音症も発話障害として、配慮の対象となります。
具体的な配慮としては、電話応対を別の担当者に代わってもらう、プレゼンテーションの際に十分な準備時間を確保する、メールやチャットでのコミュニケーションを優先する、といったことが考えられます。重要なのは、吃音という特性を隠すのではなく、オープンにすることで適切な支援を受けやすくすることです。
✓ 吃音に左右されにくい職種の選択
吃音があっても強みを活かせる職種は数多く存在します。特にIT分野は、対面でのコミュニケーションよりも、論理的思考力や集中力が重視される場面が多く、吃音のある人にとって働きやすい環境といえます。
プログラマー、システムエンジニア、Webデザイナー、データアナリストといった職種では、成果物のクオリティが評価の中心となり、発話の流暢さは必ずしも重要ではありません。また、リモートワークが普及した現代では、テキストベースのコミュニケーションが主流となる職場も増えており、吃音のある人にとって選択肢は広がっています。
✓ 面接での対応
就職活動の面接は、吃音のある人にとって大きなハードルとなります。緊張する場面で症状が悪化しやすいためです。対策としては、事前に面接官に吃音があることを伝え、理解を求めることが有効です。
「私は吃音がありますが、話の内容や業務遂行能力には影響ありません」と最初に伝えることで、面接官も適切な対応を取りやすくなります。また、想定質問への回答を事前に準備し、落ち着いて答えられるようにしておくことも効果的です。
周囲の人ができる適切な対応
吃音のある人を支えるために、家族や友人、同僚ができる配慮があります。適切な理解と対応は、当事者の心理的負担を大きく軽減し、症状の改善にもつながります。
✓ してはいけないこと
- 言葉を先回りして補完する:相手の言いたいことがわかっても、代わりに言ってしまうのは避けましょう
- 「落ち着いて」「ゆっくり話して」と指示する:本人も落ち着きたいと思っているため、かえってプレッシャーになります
- 吃音を指摘したり訂正したりする:「今、詰まったね」などの指摘は不要です
- 視線をそらす:話している最中に目を合わせないのは、相手に不快感を与えます
✓ すべきこと
- 自然体で接する:吃音があってもなくても、同じ態度で接することが大切です
- 最後まで話を聞く:焦らず、じっくりと耳を傾けましょう
- 内容に反応する:話し方ではなく、話の中身に対して反応しましょう
- 必要に応じて配慮を尋ねる:「何かできることはありますか」と聞いてみるのも良いでしょう
言葉がつまる症状でお悩みの方へ
言葉がつまる症状、特に吃音症は、適切な理解と支援によって、生活の質を大きく改善できる状態です。症状そのものを完全になくすことは難しくても、吃音とうまく付き合いながら、充実した人生を送ることは十分に可能です。
大切なのは、一人で抱え込まず、専門家や理解ある周囲の人々とつながることです。医療機関での診断や治療、言語聴覚士による訓練、セルフヘルプグループでの交流など、利用できる資源は多くあります。
また、発達障害を伴う吃音症の場合、特性に配慮した専門的な支援が特に重要となります。お子さまの吃音や発達特性にお悩みの保護者の方、あるいは就労に不安を感じている成人の方は、ぜひ一度、専門機関にご相談ください。
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