失語症分類を理解する|各タイプの特徴とコミュニケーション支援の実践
失語症とは何か
失語症は、脳の言語中枢が損傷を受けることで発症する言語障害です。多くの場合、脳卒中(脳梗塞や脳出血)、外傷性脳損傷、脳腫瘍などが原因となります。重要なのは、失語症は知的能力そのものの低下ではなく、言語というツールを使う機能に問題が生じた状態だという点です。
言語機能は脳の特定の領域によって担われていますが、特に左半球の前頭葉から側頭葉にかけての領域が重要な役割を果たします。この領域には「ブローカ野」と「ウェルニッケ野」という2つの主要な言語中枢が存在し、どちらが損傷を受けるかによって失語症のタイプが大きく変わってきます。
失語症の方は、頭の中では考えがまとまっているのに言葉として表出できない、あるいは相手の言葉は聞こえているのに意味が理解できないといった困難を抱えることになります。こうした状態は本人にとって非常にもどかしく、周囲とのコミュニケーションに大きな支障をきたします。
失語症の分類体系と各タイプの特徴
失語症は古くから様々な分類法が提唱されてきましたが、現在最も広く用いられているのは「ボストン分類」と呼ばれる体系です。この分類では、流暢性(言葉の滑らかさ)、理解力、復唱能力という3つの軸を基準に、失語症を8つの主要なタイプに分けています。ここでは、臨床現場で特に多く見られる5つのタイプについて詳しく見ていきます。
✓ ブローカ失語(運動性失語)
ブローカ失語は、左前頭葉のブローカ野周辺の損傷によって生じる失語症です。「運動性失語」とも呼ばれ、言葉を話す(表出する)ことに大きな困難を抱えるのが特徴です。
ブローカ失語の方の発話は「非流暢」と表現されます。一語一語を絞り出すように話し、文法的な要素(助詞や助動詞など)が欠落した電報文のような話し方になります。例えば「昨日、息子と公園に行った」という文を「昨日…息子…公園…行った」のように話すといった具合です。努力性が強く、発話には明らかな困難が伴います。
一方で、他者の話す内容の理解は比較的保たれていることが多いのがブローカ失語の特徴です。そのため、ご本人は「言いたいことはわかっているのに言葉が出てこない」というもどかしさを強く感じます。自分の障害を認識しているため、話すことへの不安や焦りから、コミュニケーション自体を避けようとする傾向も見られます。
✓ ウェルニッケ失語(感覚性失語)
ウェルニッケ失語は、左側頭葉のウェルニッケ野周辺の損傷によって生じます。「感覚性失語」とも呼ばれ、ブローカ失語とは対照的に、言葉の理解に重大な障害が生じるタイプです。
ウェルニッケ失語の最大の特徴は、発話は流暢であるものの内容に意味がないという点です。文法的には正しい構造を保ちながら、実際の単語が誤っていたり(錯語)、全く造語になっていたり(新造語)することで、聞き手には何を言っているのか理解できない状態になります。これは「ジャーゴン」と呼ばれ、まるで外国語を話しているかのような印象を与えます。
さらに重要なのは、ご本人が自分の言語障害を認識していないことが多いという点です。そのため、周囲が理解できないことに対して「なぜわかってくれないのか」と苛立ちを感じることもあります。聴覚的理解の障害により、他者の言葉だけでなく自分が話した言葉の誤りにも気づけないのです。
✓ 伝導失語
伝導失語は、ブローカ野とウェルニッケ野を結ぶ「弓状束」という神経線維の損傷によって生じます。このタイプの特徴は、復唱が著しく困難であるという点にあります。
伝導失語の方は、自発的な会話では比較的流暢に話すことができ、相手の言葉の理解も良好です。しかし、他者が言った言葉をそのまま繰り返す「復唱」という課題になると、極端に困難になります。短い単語であれば復唱できることもありますが、文章になると音韻性錯語(音の間違い)が頻発し、何度も言い直しを試みます。
興味深いのは、復唱は困難なのに、同じ内容を自分の言葉で言い換えることは可能だという点です。たとえば「今日は良い天気ですね」という文を復唱するよう求められると「きょうは…いいてん…てん…」と詰まってしまうのに、「天気はどうですか」と質問されると「晴れています」とスムーズに答えられるといった具合です。
✓ 全失語
全失語は、言語機能のほぼすべてが重度に障害されるタイプです。広範囲の言語野が損傷された場合に生じ、「話す」「聞く」「読む」「書く」のすべてに重大な困難を抱えます。
全失語の方の発話は非常に限定的で、「はい」「いいえ」などの簡単な応答や、常同言語(同じ言葉の繰り返し)のみになることも少なくありません。理解面でも重度の障害があり、日常的な簡単な指示でさえ理解が難しい状態です。復唱もほとんど不可能で、読み書きも同様に重度に障害されます。
ただし、全失語だからといってすべてのコミュニケーションが不可能というわけではありません。表情や身振り、声のトーンといった非言語的な手段は保たれていることが多く、感情の表出や簡単な意思疎通は可能です。また、歌は歌えるといった現象が見られることもあり、これは言語機能と音楽機能が脳の異なる領域で処理されているためと考えられています。
✓ 健忘失語(失名詞失語)
健忘失語は、比較的軽度な失語症のタイプとされています。最も特徴的なのは「喚語困難」と呼ばれる症状で、特に名詞を思い出すことが困難になります。
健忘失語の方は、会話は流暢で文法的にも正しく、相手の言葉の理解も良好です。しかし、話している最中に特定の単語、特に物の名前が出てこなくなります。たとえば「昨日、あの…ほら、あれを使って…」というように、目的の単語の周辺を迂回するような話し方になります。これを「迂言」と呼びます。
興味深いことに、その物を見せられれば「ああ、時計ですね」と正しく答えられることも多く、視覚的手がかりがあれば語彙へのアクセスが改善されます。また、最初の音(語頭音)をヒントとして与えると、正しい単語が引き出されることもあります。復唱は比較的良好で、読み書きにも大きな問題がないことが多いため、日常生活への影響は他のタイプと比べると軽度といえます。
✓ その他の失語症タイプ
上記の主要5タイプ以外にも、臨床的には「経皮質性運動失語」「経皮質性感覚失語」「混合型経皮質性失語」といったタイプが知られています。これらは復唱が比較的保たれているという共通点があり、脳の言語野周辺領域の損傷によって生じます。
また、分類不能型や非定型的な症状を示すケースも存在します。脳損傷の部位や範囲は個人によって異なるため、教科書通りの典型的な症状を示さない方も少なくありません。実際の臨床場面では、これらの分類はあくまで目安であり、一人ひとりの症状を丁寧に評価することが重要です。
失語症と他の言語障害との違い
失語症はしばしば他の言語障害と混同されがちですが、その発症メカニズムと症状の特性は明確に異なります。正確な理解と適切な対応のために、主な違いを押さえておきましょう。
✓ 構音障害との違い
構音障害は、言葉を形作る運動機能の障害です。言語中枢は正常に機能しているため、何を言いたいかは明確で、文法も適切です。しかし、舌や唇、声帯などの発声発語器官の運動が障害されているために、発音が不明瞭になります。
具体的には、「さしすせそ」が「たちつてと」に聞こえるといった音の歪みが生じます。重度の場合は何を言っているのかまったく聞き取れないこともありますが、筆談やタイピングでは正確に伝えられるのが失語症との大きな違いです。失語症の方は書字も障害されることが多いため、この点で鑑別できます。
構音障害の原因は、脳幹や小脳の障害(中枢性)、あるいは舌や顔面の筋力低下や麻痺(末梢性)です。パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患でも見られます。リハビリでは言語聴覚士による発声発語訓練が中心となり、失語症のリハビリとはアプローチが異なります。
✓ 失声症との違い
失声症は、声が出せない、または出にくくなる状態です。器質的な問題(声帯の病変など)による場合と、心因性(ストレスなど)による場合があります。失声症の方は、言語能力自体は保たれているため、筆談では全く問題なくコミュニケーションが取れます。
一方、失語症は声の有無とは関係なく、言語そのものの理解や表出に障害があります。声は出ていても内容が支離滅裂だったり、逆に声は出ているのに適切な言葉が見つからなかったりします。この点で失声症とは明確に区別されます。
失語症の原因と発症メカニズム
失語症の主な原因は脳血管障害、すなわち脳卒中です。日本脳卒中データバンクの報告によれば、脳卒中患者の約30〜40%に何らかの失語症状が認められるとされています。
✓ 脳血管障害による失語症
脳梗塞は、脳の血管が詰まることで脳組織への血流が途絶え、神経細胞が壊死する病態です。左中大脳動脈領域の梗塞では、ブローカ野やウェルニッケ野が損傷されやすく、失語症を引き起こします。梗塞の範囲が広いほど、また言語中枢の中心部に近いほど、失語症は重度になる傾向があります。
脳出血の場合も同様に、出血部位が言語野を圧迫・破壊することで失語症が生じます。脳梗塞と比べて急激に症状が現れることが多く、初期の意識障害を伴うケースも少なくありません。
くも膜下出血では、直接的な言語野の損傷よりも、血管攣縮による二次的な脳梗塞で失語症が生じることがあります。
✓ その他の原因
外傷性脳損傷も失語症の重要な原因です。交通事故や転落などによる頭部外傷で、言語野が直接損傷されたり、脳挫傷や硬膜下血腫によって圧迫されたりすることで失語症が生じます。
脳腫瘍が言語野に発生した場合や、脳腫瘍の手術で言語野を含む領域を摘出した場合にも失語症が起こりえます。腫瘍の場合は徐々に症状が進行することが多く、初期には軽度の言葉の出にくさとして気づかれることもあります。
また、脳炎や脳膿瘍といった感染性疾患、てんかんの持続状態、アルツハイマー型認知症の進行期などでも失語症状が見られることがあります。認知症に伴う失語症は、記憶障害や判断力低下など他の認知機能障害を併せ持つ点で、脳卒中による失語症とは異なる特徴があります。
失語症の診断方法
失語症の診断は、まず脳画像検査(CTやMRI)によって脳損傷の有無と部位を確認することから始まります。画像所見で言語野周辺の損傷が確認されたら、次に言語機能の詳細な評価を行います。
✓ 標準失語症検査(SLTA)
日本で最も広く使用されているのが標準失語症検査(Standard Language Test of Aphasia:SLTA)です。この検査は「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算」の5つの領域について、26項目の下位検査で構成されています。
具体的には、単語や文の復唱、物品の呼称(名前を言う)、絵の説明、文章の音読、書き取り、仮名と漢字の理解など、様々な角度から言語能力を評価します。検査には通常1〜2時間程度かかりますが、これによって失語症のタイプと重症度を客観的に判定できます。
✓ WAB失語症検査
Western Aphasia Battery(WAB)は、国際的に広く用いられている失語症評価法です。自発話、聴覚的理解、復唱、呼称の4つの言語機能を評価し、失語指数(Aphasia Quotient:AQ)という総合的な指標を算出します。この指数によって失語症の重症度を数値で表すことができ、経時的な改善を追跡するのにも有用です。
✓ その他の評価法
トークンテスト(Token Test)は、聴覚的理解を簡便に評価できる検査です。色や形、大きさの異なるトークン(コイン状の道具)を使い、「大きい赤い丸を取ってください」などの指示に従えるかを見ます。指示が徐々に複雑になっていくため、理解力の程度を段階的に評価できます。
実用コミュニケーション能力検査(CADL)は、検査場面だけでなく実生活でのコミュニケーション能力を評価します。買い物の場面を想定した課題などを通じて、実際の社会生活での言語機能を測定します。
失語症のリハビリテーション
失語症のリハビリテーションは、言語聴覚士(ST:Speech-Language-Hearing Therapist)が中心となって実施します。リハビリの目標は、言語機能そのものの回復だけでなく、残存する能力を最大限に活用して実用的なコミュニケーション手段を獲得することにあります。
✓ リハビリの時期による分類
急性期(発症から約1か月)では、全身状態の管理が優先されますが、可能であれば早期からのリハビリ介入が推奨されています。この時期は自然回復も大きく、適切な刺激を与えることで言語機能の改善が促進されます。ただし、疲労を避け、短時間の訓練から開始することが重要です。
回復期(発症から約6か月)は、言語機能の改善が最も期待できる時期です。集中的なリハビリが効果的であり、1日1〜2時間程度の訓練を週5日程度行うことが一般的です。この時期に獲得した能力は比較的安定しやすく、その後の生活の基盤となります。
維持期(生活期)では、獲得した能力を維持・向上させながら、社会参加を促進することが目標となります。外来での定期的なリハビリに加えて、失語症友の会などの患者会活動や、地域の言語訓練グループへの参加が推奨されます。
✓ 失語症タイプ別のリハビリアプローチ
ブローカ失語へのアプローチでは、発話の促進が中心となります。メロディ・イントネーション療法(MIT)は、歌のメロディに乗せて言葉を発する訓練法で、右脳の音楽機能を活用することで発話を引き出します。また、語頭音を手がかりとして提示したり、文字カードを用いて視覚的手がかりを与えたりすることも有効です。
ウェルニッケ失語へのアプローチでは、まず聴覚的理解力の改善を目指します。単語レベルから始めて、徐々に文レベルへと段階的に進めます。絵カードとの対応づけや、「はい・いいえ」で答えられる質問から始め、徐々に複雑な理解課題へと移行します。また、自己の誤りに気づかせる訓練も重要で、録音した自分の発話を聞かせるといった手法が用いられます。
伝導失語へのアプローチでは、復唱能力の向上を目指しますが、無理な復唱訓練はかえって挫折感を与えることもあります。むしろ、自分の言葉で言い換える能力を強化したり、視覚的手がかり(文字)を利用したりする方法が効果的です。
全失語へのアプローチでは、非言語的コミュニケーション手段の活用が重要になります。コミュニケーションボードやジェスチャー、タブレット端末のアプリなど、様々な代替コミュニケーション手段(AAC:Augmentative and Alternative Communication)の導入を検討します。
健忘失語へのアプローチでは、語彙の想起を促進する訓練が中心です。意味的手がかり(「食べ物です」「朝食に食べます」など)や音韻的手がかり(語頭音)を段階的に提示する方法、あるいは絵を見せて名前を言わせる呼称訓練などが行われます。
✓ 最新のリハビリ手法
近年では、コンピュータやタブレット端末を用いた訓練ソフトウェアが開発されています。自宅でも継続的に訓練できるため、訓練量の確保という点で有用です。ゲーム感覚で楽しみながら取り組めるものも多く、モチベーションの維持にも効果的です。
また、経頭蓋磁気刺激(TMS)や経頭蓋直流電気刺激(tDCS)といった脳刺激療法を言語訓練と組み合わせることで、より効果的な改善が得られる可能性が研究されています。これらはまだ研究段階の治療法ですが、将来的な選択肢として期待されています。
※専門スタッフが丁寧に対応いたします
失語症の方とのコミュニケーション方法
失語症の方とコミュニケーションを取る際には、いくつかの基本的な配慮が必要です。何より大切なのは、言語機能は障害されているが、知的能力は保たれているという認識を持つことです。
✓ 基本的なコミュニケーションの心得
まず、ゆっくりと、短い文で話しかけることが基本です。複雑な文章や専門用語は避け、日常的な言葉で簡潔に伝えます。一度に多くの情報を伝えようとせず、一つずつ確認しながら進めることが重要です。
話すときは、ゆっくりとした速度で、はっきりと発音します。ただし、子ども扱いするような話し方や、過度に大きな声で話すことは避けましょう。失語症の方は聴力に問題があるわけではありませんし、大人として尊重されるべき存在です。
視覚的な情報を活用することも効果的です。身振り手振りを交えたり、実物を見せたり、絵や写真を使ったりすることで、言葉だけでは伝わりにくい内容も理解しやすくなります。文字を書いて示すことも有用ですが、失語症の方は読字も障害されていることがあるため、効果には個人差があります。
✓ タイプ別のコミュニケーションのコツ
ブローカ失語の方との接し方では、言葉が出てくるまで十分に待つことが大切です。焦らせたり、先回りして言葉を補ったりせず、ご本人が自分で言葉を見つけるプロセスを見守ります。ただし、あまりに困っている様子が見られたら、語頭音を提示するなどのヒントを与えることは有効です。
理解力は保たれていることが多いため、意思決定の場面では選択肢を提示し、「はい・いいえ」で答えられる質問形式にすると、ご本人の意向を確認しやすくなります。決して一方的に物事を決めてしまわず、ご本人の意思を尊重する姿勢が重要です。
ウェルニッケ失語の方との接し方では、理解の障害が大きいため、より丁寧な配慮が必要です。重要な情報は繰り返し伝え、理解できたかどうかを確認します。ただし、ご本人は理解したつもりでいることも多いため、実際の行動を見て確認することも必要です。
ご本人の発話が支離滅裂であっても、否定したり訂正したりすることは避けましょう。むしろ、何を伝えようとしているのかを推測し、「〇〇ということですか」と確認する形で対応します。視覚的な手がかりを多用し、実物を見せながら話すことで、理解を助けることができます。
全失語の方との接し方では、非言語的コミュニケーションが中心となります。表情、うなずき、視線、ジェスチャーなど、あらゆる手段を使って意思疎通を図ります。コミュニケーションボードや絵カード、タブレット端末のアプリなどの補助手段を積極的に活用します。
言語的なコミュニケーションが難しくても、感情の表出や共感は可能です。笑顔や温かいまなざし、適切な身体接触(肩に手を置くなど)は、言葉以上に心を通わせる手段となります。
✓ 避けるべきコミュニケーション
いくつかの行動は、失語症の方にとって不快であったり、コミュニケーションを困難にしたりします。まず、子ども扱いをしないことです。言語機能が障害されていても、大人としての判断力や感情は健在です。
また、ご本人の目の前で、ご本人を話題にして他の人と会話することも避けるべきです。これは理解力が保たれている方にとっては特に不快な体験となります。必ずご本人に向かって話しかけ、会話に参加してもらうよう配慮します。
うまく話せないからといって、話す機会を奪ってしまうことも問題です。時間がかかっても、ご本人が自分で伝えようとする努力を支えることが大切です。コミュニケーションの機会そのものが、リハビリの一環にもなります。
※ご家族の方もお気軽にご相談ください
失語症の相談先と支援制度
失語症は言語という人間の根本的な機能に関わる障害であるため、医療だけでなく福祉や就労といった多方面からの支援が必要です。ここでは、失語症の方やご家族が相談できる窓口と、利用できる支援制度について解説します。
✓ 医療機関での相談
まず相談すべきなのは、脳神経内科、脳神経外科、リハビリテーション科のある医療機関です。失語症の診断と治療方針の決定、リハビリテーションの処方などを行います。
言語聴覚士(ST)による言語療法を受けるには、医師の指示が必要です。医療保険を使ったリハビリは、発症から日数制限がありますが、維持期以降も介護保険でのリハビリや自費でのリハビリを継続することが可能です。
✓ 高次脳機能障害支援拠点機関
失語症は高次脳機能障害の一つとして位置づけられており、各都道府県に設置されている高次脳機能障害支援拠点機関で相談できます。これらの機関では、失語症を含む高次脳機能障害についての相談対応、情報提供、支援コーディネート、関係機関との連携調整などを行っています。
支援拠点機関では、医療、福祉、就労といった様々な側面からの支援について、総合的なアドバイスが得られます。どこに相談すればよいかわからない場合は、まずここに問い合わせてみるとよいでしょう。
✓ 身体障害者手帳と障害福祉サービス
重度の失語症の場合、身体障害者手帳(音声言語機能障害)の交付を受けられる可能性があります。手帳を取得することで、医療費助成、交通機関の割引、税制優遇などの支援を受けられます。
また、障害福祉サービスとして、ホームヘルプサービスや移動支援、日中活動の場の提供などが利用できます。市区町村の障害福祉担当窓口で相談し、サービスの利用申請を行います。
✓ 就労支援制度
失語症があっても、適切な配慮があれば就労は可能です。ハローワークには障害者専門の窓口があり、障害者雇用での求人紹介や職場定着支援を行っています。
地域障害者職業センターでは、職業評価や職業準備訓練、ジョブコーチによる職場適応支援などのサービスを提供しています。障害者就業・生活支援センターでは、就労面と生活面の両方から一体的な支援を受けられます。
すぐに一般就労が難しい場合は、就労移行支援事業所や就労継続支援事業所(A型・B型)の利用も選択肢となります。これらの事業所では、就労に必要なスキルの訓練や、実際の作業を通じた就労経験を積むことができます。
✓ 失語症友の会と意思疎通支援事業
全国各地に「失語症友の会」と呼ばれる患者会・家族会が存在します。同じ悩みを持つ当事者同士の交流は、精神的な支えとなるだけでなく、実践的なコミュニケーション訓練の場にもなります。
また、一部の自治体では「失語症者向け意思疎通支援事業」が実施されています。これは、失語症の特性を理解した会話パートナーが、失語症の方の外出や社会参加に同行し、コミュニケーションを支援するものです。
失語症分類の理解がもたらす適切な支援
失語症は、その分類によって症状の現れ方が大きく異なります。ブローカ失語とウェルニッケ失語では、まるで正反対の症状を示すように見えますが、どちらも脳損傷による言語機能の障害という点では共通しています。
重要なのは、失語症のタイプを正しく理解することで、それぞれに適したコミュニケーション方法やリハビリアプローチを選択できるという点です。画一的な対応ではなく、一人ひとりの症状に合わせた支援が、言語機能の回復と生活の質の向上につながります。
失語症の方は、言葉という重要なツールを失ったことで、社会から孤立しがちです。しかし、適切な支援と周囲の理解があれば、コミュニケーションの手段を取り戻し、再び社会参加することは十分に可能です。
失語症のリハビリテーションに終わりはありません。発症から何年経っても、継続的な訓練や社会参加の機会を持つことで、言語機能や生活の質が向上する可能性があります。医療、福祉、就労といった様々な支援制度を活用しながら、長期的な視点で支援を継続していくことが大切です。
ご本人だけでなく、ご家族の方も大きな負担を抱えています。専門機関への相談や、患者会・家族会への参加を通じて、支援の輪を広げていくことをお勧めします。一人で抱え込まず、様々な支援を活用しながら、失語症とともに生きる道を見つけていきましょう。
※高次脳機能障害を含む様々な障害への支援を行っています
この記事のまとめ
- 失語症は脳損傷による言語機能の障害で、知的能力は保たれている
- 主な分類にはブローカ失語、ウェルニッケ失語、伝導失語、全失語、健忘失語がある
- タイプによって症状が大きく異なり、適切なコミュニケーション方法も異なる
- リハビリテーションは言語聴覚士が中心となり、タイプに応じたアプローチを行う
- 高次脳機能障害支援拠点機関や就労支援制度など、様々な相談先と支援制度がある