大人の学習障害とは|3つのタイプと仕事で活かせる対策
大人の学習障害(LD/SLD)とは
学習障害は、医学的には「限局性学習症(Specific Learning Disorder:SLD)」と呼ばれます。全般的な知的発達には遅れがないものの、読字、書字、算数・数学的推論といった学業スキルの習得と使用に著しい困難を示す神経発達症の一種です。
DSM-5(米国精神医学会の診断基準)では、少なくとも6か月間、適切な介入を行っても学習の困難が持続している場合に診断されます。重要なのは、これが本人の努力不足や怠けによるものではなく、脳の情報処理の特性に起因するということです。
文部科学省の調査によれば、学習面で著しい困難を示す児童生徒の割合は4.5%程度とされています。ただし、この数値は子どもを対象としたもので、大人になってから診断される方を含めると、実際にはより多くの方が学習障害の特性を持っていると考えられます。
✓ 大人になって気づくケースが多い理由
子どもの頃は「ちょっと苦手なだけ」「努力が足りない」と片付けられ、学習障害であることに気づかれないまま成長する方が多くいます。社会人になると、以下のような場面で困難が顕在化します。
- ✓ メールや報告書の作成に異常に時間がかかる
- ✓ 数字の転記ミスや計算ミスを繰り返してしまう
- ✓ 会議の内容をメモに取りながら聞くことができない
- ✓ 長文の資料を読み込むのに膨大な労力がかかる
こうした困難は、周囲からは「注意が足りない」「真面目に取り組んでいない」と誤解されやすく、本人も「自分はダメな人間だ」と自己評価を下げてしまいがちです。しかし、これは脳の特性によるものであり、適切な理解と工夫によって、十分に能力を発揮できる可能性があります。
大人の学習障害の3つのタイプと特徴
学習障害は、困難を示す領域によって大きく3つのタイプに分類されます。それぞれの特徴と、仕事で現れやすい困りごとを見ていきましょう。
1 読字障害(ディスレクシア)
読字障害は、文字を読むことに著しい困難を示すタイプです。「読む」という行為は、文字を認識し、音に変換し、意味を理解するという複数の処理を瞬時に行う複雑な作業ですが、ディスレクシアの方はこの処理に時間がかかったり、正確に行えなかったりします。
主な特徴
- 文字を一つひとつ拾って読むため、読むスピードが極端に遅い
- 似た形の文字(「わ」と「ね」、「シ」と「ツ」など)を読み間違える
- 行を飛ばして読んでしまう、同じ行を繰り返し読んでしまう
- 読むことに集中すると内容が頭に入らない
仕事での困りごと例
メールや報告書、マニュアルなど、業務上必要な文書を読むのに人の何倍も時間がかかってしまいます。会議資料を事前に読み込むことができず、会議中に話についていけなくなることもあります。また、顧客からのメールを読み違えて誤った対応をしてしまうといったミスにつながることもあります。
2 書字表出障害(ディスグラフィア)
書字表出障害は、文字を書くことや文章を作成することに困難を示すタイプです。手書きの場合だけでなく、キーボード入力でも、考えを文字にして表現することそのものに課題があります。
主な特徴
- 文字のバランスが悪く、極端に字が汚い
- 漢字の細かい部分(へんやつくり)を間違える
- 句読点の使い方や文章構成が不自然になる
- 頭の中にある考えを文章にまとめられない
仕事での困りごと例
議事録やメール、報告書の作成に膨大な時間がかかります。口頭では説明できることでも、文章にしようとすると言葉が出てこなくなる方もいます。手書きの伝票記入や申請書類の作成で、文字の判読が難しいと指摘されることもあります。
特に注意が必要なのは、ディスグラフィアの方の多くは話す能力には問題がないという点です。口頭でのコミュニケーションは得意なのに、書くことだけが極端に苦手というギャップがあるため、「手を抜いている」と誤解されやすいのです。
3 算数障害(ディスカリキュリア)
算数障害は、数の概念の理解や計算、数学的推論に困難を示すタイプです。単純な計算ミスではなく、数そのものの理解に課題があります。
主な特徴
- 簡単な暗算ができず、指を使って数える
- 数字の桁を読み間違える(1,000と10,000の区別がつきにくい)
- 数の大小関係や順序の理解が困難
- 時計を読むのが苦手で、時間の管理が難しい
仕事での困りごと例
経理業務や在庫管理など、数字を扱う作業でミスを繰り返してしまいます。見積書や請求書の作成、データ入力での数字の転記ミスが多発します。また、アナログ時計が読めないため、時間管理に支障が出ることもあります。電話番号やパスワードなど、数字の羅列を覚えることも苦手です。
興味深いことに、算数障害のある方の中には、数式やプログラミングのような論理的思考は得意というケースもあります。これは、数の感覚(数量を直感的に把握する能力)と数学的推論(論理的に問題を解く能力)が別の脳機能だからです。
大人の学習障害の診断と検査
「もしかして自分は学習障害かもしれない」と思ったとき、どこで診断を受ければよいのでしょうか。
✓ 診断を受けられる医療機関
学習障害の診断は、精神科、心療内科、発達障害専門外来などで受けることができます。特に「大人の発達障害外来」を設けている医療機関では、成人期特有の困りごとに対応した診断・支援を受けられます。
初診時には、子どもの頃からの学習歴、現在の仕事での困りごと、生活上の課題などについて詳しく聞き取りが行われます。家族からの情報提供が求められることもあるため、可能であれば通知表や成績表などを持参すると診断の参考になります。
✓ 主な検査方法
学習障害の診断には、主に以下のような検査が用いられます。
- ✓ 知能検査(WAIS-Ⅳなど):全般的な知的能力と、言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度といった領域別の能力を測定
- ✓ 学力検査:読字、書字、計算などの学業スキルを評価
- ✓ 神経心理学的検査:視知覚、聴覚処理、実行機能などの認知機能を詳しく調べる
これらの検査結果を総合的に判断し、診断が下されます。検査には数時間かかることが多く、複数回の通院が必要になる場合もあります。
✓ 診断基準のポイント
DSM-5における学習障害の診断基準では、以下の点が重視されます。
- 1 学業スキルの習得と使用に困難があり、少なくとも6か月間持続している
- 2 その困難が年齢相応に期待されるレベルよりも著しく低い
- 3 学齢期に始まっている(大人になってから初めて診断される場合でも、子どもの頃から困難があったことが確認される)
- 4 知的能力障害、視覚・聴覚の障害、不適切な教育環境などでは説明できない
重要なのは、学習障害の診断を受けることがゴールではなく、自分の特性を理解し、適切な支援や工夫を得るためのスタートだということです。診断によって、職場での合理的配慮を求める根拠が得られたり、福祉サービスを利用できるようになったりします。
仕事での困りごとと具体的な対処法
学習障害のある方が仕事で直面する困難は多岐にわたりますが、適切な工夫や配慮によって、能力を十分に発揮できる環境を作ることは可能です。ここでは、実際の現場でよくある困りごととその対処法を紹介します。
1 口頭指示の理解と実行が難しい
困りごと:会議や打ち合わせで口頭で説明された内容を理解できない、聞き取りながらメモを取ることができない
対処法:
- ICレコーダーやスマートフォンで録音し、後で聞き直す
- 指示を受けたら、自分の理解を口頭で確認する
- 重要な指示はメールやチャットで文字にして送ってもらうよう依頼する
- 図やフローチャートで視覚的に説明してもらう
2 メールや報告書の作成に時間がかかる
困りごと:文章を書くのに異常に時間がかかる、誤字脱字が多い、わかりやすい文章が書けない
対処法:
- メールや報告書のテンプレートを作成し、穴埋め形式にする
- 音声入力機能を活用し、話した内容を文字化する
- 文章校正ツール(Grammarly、文賢など)でチェックする
- 重要な文書は同僚や上司に確認してもらう体制を作る
3 数字の入力ミスや計算ミスが多い
困りごと:データ入力で数字を間違える、電卓を使っても計算結果が合わない、金額の桁を間違える
対処法:
- Excelの関数を活用し、手入力を最小限にする
- 数字を3桁ごとにカンマで区切り、視覚的に確認しやすくする
- 入力後は必ず見直しの時間を設ける
- 重要な数字は二重チェック体制にする
4 長文の資料を読むのに時間がかかる
困りごと:マニュアルや契約書を読むのに膨大な時間がかかる、読んでも内容が頭に入らない
対処法:
- テキスト読み上げソフト(NaturalReader、NVDA等)を使う
- 重要な資料は事前に余裕を持って受け取り、少しずつ読む
- 要点を箇条書きにまとめてもらう
- 口頭で説明してもらう機会を設ける
これらの工夫は、職場に特性を開示し、理解と協力を得ることでより効果的に実践できます。「怠けている」と誤解されないためにも、自分の特性と必要な配慮について、適切に説明できる準備をしておくことが大切です。
学習障害のある方が活用できる支援サービス
学習障害のある方の就労や生活を支援するサービスは、さまざまな形で提供されています。ここでは、主な支援機関とそのサービス内容を紹介します。
✓ 就労移行支援事業所
就労移行支援は、一般企業への就職を目指す障害のある方に対して、就労に必要なスキルや知識を習得するための訓練を提供するサービスです。
主なサービス内容:
- ビジネスマナーやコミュニケーションスキルの訓練
- PCスキル(Word、Excel、PowerPointなど)の習得
- 企業実習の機会提供
- 就職活動のサポート(履歴書作成、面接練習など)
- 就職後の定着支援
利用期間は原則2年間で、障害福祉サービス受給者証があれば、前年の世帯収入に応じた自己負担額(多くの場合は無料)で利用できます。
✓ 就労継続支援B型事業所
就労継続支援B型は、一般企業での就労が困難な方、または就労移行支援を利用したが就職に至らなかった方などが、自分のペースで働きながらスキルを身につけられるサービスです。
主な特徴:
- 雇用契約を結ばずに働ける(出来高に応じて工賃を受け取る)
- 週の利用日数や時間を柔軟に調整できる
- 利用期間の制限がない
- 将来の一般就労を目指しながら、段階的にスキルアップできる
IT業務に特化した事業所では、データ入力やWeb制作補助、プログラミングなど、学習障害のある方でも取り組みやすい作業を提供しているところもあります。
✓ その他の支援機関
ハローワーク:専門の相談員による就職支援、障害者雇用枠の求人紹介
障害者就業・生活支援センター:就労と生活の両面から継続的にサポート
発達障害者支援センター:発達障害に特化した相談・支援機関
地域障害者職業センター:職業評価、職業訓練、ジョブコーチ支援など
IT×福祉で新しい可能性を
IT×福祉で可能性を広げる――プラスイノベーションの支援
学習障害のある方の中には、集中力の高さや論理的思考力など、IT分野で活かせる強みを持つ方が多くいます。株式会社プラスイノベーションでは、こうした特性を「弱み」ではなく「強み」として捉え、IT療育や就労支援を通じて可能性を最大限に引き出す取り組みを行っています。
✓ CYBER TECH ACADEMY(サイバーテックアカデミー)
IT就労に特化した自立訓練事業所です。学習障害のある方でも、それぞれのペースでITスキルを習得できる環境を整えています。
サービスの特徴:
- ✓ 最長2年間の訓練期間で、基礎から実務レベルまでステップアップ
- ✓ 現役エンジニアやデザイナーによる実践的な指導
- ✓ 作業療法士による日常動作・就労準備支援
- ✓ 自社ITソリューション部門での就労機会
読字障害のある方には音声教材を、書字障害のある方にはテンプレート活用の訓練を、算数障害のある方にはExcel関数の活用方法をといったように、個々の特性に応じた学習方法を提案しています。
✓ ワークリンク尼崎(就労継続支援B型)
IT・パソコン業務に特化したB型事業所です。在宅勤務にも対応しており、自分のペースで働きながらスキルアップを目指せます。
主な作業内容:
- データ入力・Excel作業
- SNS運用支援、YouTube動画編集
- ホームページ制作・保守
- RPA開発補助
臨床心理士・公認心理士が常駐しており、仕事上の不安や困りごとについて、いつでも相談できる体制が整っています。IT未経験からでも、段階的にスキルを習得していける環境です。
「文章を書くのが苦手で、これまで事務職は諦めていました。でもワークリンクではテンプレートを使った作業から始められて、少しずつ自信がついてきました。心理カウンセラーさんに不安を聞いてもらえるのも心強いです」
よくある質問
Q 学習障害は治りますか
学習障害は脳の機能的な特性であり、「治る」ものではありません。しかし、適切な理解と工夫、支援によって、困難を軽減し、日常生活や仕事で能力を十分に発揮することは可能です。重要なのは、特性を否定するのではなく、それを踏まえた上で強みを活かす方法を見つけることです。
Q 職場に学習障害のことを伝えるべきですか
状況によりますが、適切な配慮を受けるためには伝えることが有効です。特に、業務上の困難が繰り返し発生している場合や、誤解されやすい状況にある場合は、自分の特性と必要な配慮について説明することで、働きやすい環境を作れる可能性があります。伝える際は、診断書や意見書などの客観的な資料があると、理解を得やすくなります。
Q 障害者手帳がないと支援サービスは利用できませんか
就労移行支援や就労継続支援B型などの障害福祉サービスを利用するには、障害福祉サービス受給者証が必要です。これは、障害者手帳がなくても、医師の診断書や意見書があれば取得できる場合があります。まずは、お住まいの市区町村の障害福祉窓口に相談してみることをおすすめします。
Q 学習障害に向いている仕事はありますか
学習障害は、特定の領域に困難がある一方で、他の能力は平均以上である場合も多くあります。例えば、読字障害のある方でも口頭でのコミュニケーションは得意だったり、算数障害のある方でもプログラミングの論理的思考は得意だったりします。重要なのは、自分の強みを理解し、それを活かせる仕事を選ぶことです。IT分野では、特性に応じたツールの活用がしやすく、学習障害のある方が活躍している例も多くあります。
まとめ
大人の学習障害は、読字、書字、算数といった特定の領域で著しい困難を示す発達障害の一つです。社会人になってから困難が顕在化し、初めて気づくケースも少なくありません。重要なのは、これが本人の努力不足ではなく、脳の情報処理の特性によるものだということです。
診断を受けることで、自分の特性を客観的に理解し、適切な支援や配慮を得るための第一歩を踏み出すことができます。仕事での困りごとに対しては、ICTツールの活用や業務フローの見直しなど、さまざまな工夫が可能です。
また、就労移行支援や就労継続支援B型といった福祉サービスを活用することで、自分のペースでスキルを習得し、働く力を身につけていくこともできます。特にIT分野では、学習障害のある方の特性を強みとして活かせる機会が多くあります。
「弱み」を「強み」に変えるという発想で、一人ひとりの可能性を最大限に引き出す——そんなアプローチが、これからの社会には必要とされています。
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株式会社プラスイノベーションでは、学習障害のある方の就労を「IT×福祉」の視点からサポートしています。
個別の特性に応じた訓練プログラムや、心理専門スタッフによる継続的な支援を提供しています。
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