匂いに敏感な人の特徴と原因|対処法と発達特性との関係を解説
では、なぜ同じ環境にいても匂いの感じ方は人によってこれほど違うのでしょうか。この記事では、匂いに敏感な人の特徴や原因を整理し、日常でできる対処法まで詳しく解説します。とくに発達障害(ASD・ADHD)との関係については、現場の支援実績をふまえて掘り下げています。
匂いへの感度は、なぜ人によってこんなに違うのか
人間の嗅覚は、五感の中でもとりわけ個人差が大きいとされています。同じ花の香りを「心地よい」と感じる人もいれば、「頭が痛くなる」と感じる人もいる。この差を生んでいるのは、鼻の構造よりも脳が匂いの情報をどう処理するかにあります。
匂いの信号は鼻腔の嗅細胞で受け取られ、嗅神経を介して脳の「嗅球」へと伝達されます。そこから扁桃体や海馬などの情動・記憶にかかわる領域に直接つながるため、視覚や聴覚とは異なり、匂いの刺激は感情や身体反応と強く結びつきやすい特性があります。つまり、匂いに敏感かどうかは、この神経回路の感度や処理の仕方によって決まる部分が大きいのです。
さらに、ストレスの蓄積・睡眠不足・ホルモン変動・過去の体験(特定の匂いと不快な記憶が結びついているなど)によっても、感度は変動します。「最近急に匂いが気になるようになった」という方は、身体や生活環境に何らかの変化が起きているサインである可能性も考えられます。
匂いに敏感になる主な原因
「匂いに敏感な人」と一口に言っても、その背景はさまざまです。大きく分けると、以下の4つの要因が知られています。
✓ 発達障害(ASD・ADHD)による感覚過敏
ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)をもつ方の中に、嗅覚を含む感覚全般が過敏になりやすいケースが多く報告されています。これは「感覚過敏」と呼ばれる状態で、脳が感覚情報を統合・調整する機能(感覚処理)に特性があることで生じます。
ASDの場合、感覚情報のフィルタリングが弱いため、周囲が「気にならない」と感じる刺激が、当事者には著しく増幅されて届くことがあります。給食の匂いで教室に入れない、他者の体臭が気になって会話に集中できない、といった困りごとはその典型です。ADHDでも、注意の制御がしにくいため一度気になった匂いから注意を切り替えにくく、結果として「ずっとその匂いが気になる」という状態が続きやすい側面があります。
✓ HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)という気質
HSPとは、生まれつき刺激への感受性が高い気質を指す概念で、アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が1990年代に提唱しました。一般人口の約15〜20%に該当するとされており、病気や障害とは異なる「気質のバリエーション」として捉えられています。
HSPの人は視覚・聴覚・嗅覚など五感全体が敏感で、とくに匂いについては他者が気にしない微弱な香りも察知しやすい傾向があります。また、匂いの情報を感情と結びつけて処理しやすいため、「ある匂いがすると気分が一変する」「特定の場所の匂いが蘇るだけで体調が崩れる」といった体験も珍しくありません。
✓ 化学物質過敏症(香害を含む)
化学物質過敏症は、微量の化学物質に繰り返し曝露されることで、ある時点から極めて微量でも反応するようになる状態です。国内では済生会の解説によると患者数は正確に把握されていないものの、「13人に1人」が何らかの症状を抱えているという推計もあります(メディリードラボ)。
柔軟剤・香水・芳香剤・消臭スプレーなどに含まれる合成香料が主な原因物質とされており、頭痛・吐き気・倦怠感・動悸といった多彩な症状が現れます。当事者にとっては日常的な外出や通勤が困難になることも多く、「香害」という言葉で社会問題としても取り上げられています。
✓ ストレスや自律神経の乱れ
「以前はそうでもなかったのに、最近になって急に匂いが気になるようになった」という場合、慢性的なストレスや睡眠不足による自律神経の乱れが関係していることがあります。自律神経は嗅覚の感度調節にも関与しており、交感神経が優位な状態(緊張・不安・疲労)が続くと、嗅覚が過敏になりやすいことが知られています。
また、女性の場合は月経周期に伴うホルモン変動の影響で匂いへの感度が一時的に高まる時期があることも確認されており、妊娠初期に吐き気や嗅覚過敏が起きやすいのはその代表例です。
匂いに敏感な人が日常で感じる困りごと
匂いへの過敏さは、身体的な不快感にとどまらず、生活全般に影響を及ぼすことがあります。以下は、当事者から実際によく聞かれる困りごとです。
✓ 吐き気・頭痛など身体的な不調
特定の匂いに接すると、吐き気・頭痛・眩暈・倦怠感といった症状が出る場合があります。これは「においで気持ち悪くなる」という状態であり、心理的な「嫌い」ではなく身体が実際に反応しているものです。電車や人混みなど逃げ場のない環境では症状が悪化しやすく、外出そのものが億劫になるケースも少なくありません。
✓ 集中力・作業効率への影響
職場や学校で特定の匂いが気になると、そこに注意が固定されてしまい、本来すべき作業に集中できなくなることがあります。とくにADHDの特性がある場合は、一度気になった刺激から注意を切り替えることが難しいため、匂いの問題が学習や仕事のパフォーマンスに直結してしまうことがあります。
✓ 人間関係・社会参加への影響
「匂いに敏感な人はうざい」「気にしすぎ」といった心ない言葉を向けられた経験がある方もいます。しかし当事者にとって匂いの苦痛は非常にリアルなものであり、周囲の理解が得られないことが二次的なストレスになることも多いです。食事の場が苦手で飲み会に参加できない、香水をつけた人と同席できないといった状況が積み重なると、社会的な孤立感につながることもあります。
日常でできる対処法
原因によって最適なアプローチは異なりますが、多くの場合に有効とされている対処法を紹介します。
✓ マスクの活用
最もシンプルで即効性のある対策です。不織布マスクを着用するだけでも吸い込む匂いの量をある程度軽減できます。さらに効果を高めたい場合は、自分の好きな香り(ラベンダーのアロマオイルなど)を少量マスクの外側に染み込ませておく方法があります。苦手な匂いを「好きな香りで上書きする」という発想で、感覚への負荷を和らげることができます。
✓ 環境の事前調整と逃げ場の確保
職場や学校での配置変更の相談(換気ができる席にしてもらうなど)、移動時間帯のずらし(通勤ラッシュを避けるなど)、利用する店舗の事前確認——こうした「環境の見通しを立てる」工夫が、予期せぬ匂いへの遭遇を減らします。どうしても苦手な場面では、席を外せる状況をつくっておくことも重要な対策のひとつです。
✓ ガムを噛む・口腔内の感覚を使う
嗅覚と味覚は相互に影響しあっています。ガムを噛むことで口腔内の刺激を増やし、嗅覚への意識を分散させる効果が期待できます。特定の強い香りのガム(ミントなど)を活用することで、苦手な匂いをブロックする効果を補完的に得られる場合もあります。
✓ 自律神経を整える生活習慣
ストレスや睡眠不足に起因する嗅覚過敏の場合、根本的には生活習慣の改善が鍵になります。規則正しい睡眠時間・適度な運動・腹式呼吸などが自律神経のバランス回復に有効とされています。とはいえ「分かっていてもできない」という状況では、専門家によるサポートを借りることも選択肢に入ります。
発達障害と嗅覚過敏——「特性」として捉えることの重要性
発達障害と嗅覚過敏の関係について、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。というのも、この視点が欠けていると、対処法の選択が根本からずれてしまうからです。
ASDの感覚過敏は、「特定の感覚刺激に対して脳が過剰に反応する」という特性から生じています。これは訓練で「治す」というよりも、刺激を適切にコントロールする環境をつくること、そして本人が自分の特性を理解して対処法を身につけることが、より現実的なアプローチです。
重要なのは、嗅覚過敏という「苦手」は、別の感覚領域での「強み」と表裏をなしていることが多いという点です。細部まで精緻に感じ取れる感覚処理能力は、デザインやプログラミング・音楽・研究などの分野では強みにもなりえます。
株式会社プラスイノベーションが運営する放課後等デイサービス「Kid'sTECH(キッズテック)」では、発達障害のある子どもたちの感覚過敏に配慮した環境設計のもと、プログラミングやITを活用した療育を行っています。「弱みを強みに変える」という視点を実践に落とし込んでいる場所です。
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大人になって初めて気づく——職場・就労での嗅覚過敏
子ども時代は「わがまま」「過敏すぎる」と片付けられてきた感覚の問題が、就職後に深刻化するケースは珍しくありません。オフィスの清掃剤・コピー機のトナー・同僚の香水……。職場環境は自分でコントロールしにくい匂いで満ちており、嗅覚過敏がある方にとって毎日の通勤・就労が著しく負担になることがあります。
発達障害がある大人の場合、こうした感覚の問題が「仕事が続かない」「職場での人間関係がうまくいかない」といった悩みの背景にあることも多いです。ただ、原因が感覚過敏だと特定できれば、職場への配慮依頼(席の移動・換気の調整など)や補助ツールの活用といった具体的な対策が取れるようになります。
プラスイノベーションが運営するIT特化型の就労継続支援B型事業所「ワークリンク尼崎」では、感覚過敏などの特性を抱えながら就労を目指す方のサポートを行っています。在宅勤務にも対応しており、オフィス環境での匂いが苦手な方でも、自分に合った働き方を探せる環境です。
匂いへの過敏さで困ったとき、どこに相談するか
匂いへの敏感さで日常生活に支障が出ている場合は、ひとりで抱え込まずに専門機関を頼ることをおすすめします。
医療機関でのアドバイスと並行して、生活環境の調整や就労・学習支援の場を活用することで、対処の幅は大きく広がります。「診断がなくても相談できる」場所として、福祉サービスの窓口は比較的敷居が低く、まず現状を整理したいという段階から活用できます。
匂いへの敏感さを「特性」として受け入れるところから
匂いに敏感であることは、「弱さ」でも「わがまま」でもありません。脳の感覚処理の仕方や気質・体質によって生じる、その人固有の特性です。大切なのは、その特性を正確に理解して、自分に合った環境や対処法を選んでいくことです。
発達障害のある方の場合、感覚過敏はその人の得意・不得意のパターンのひとつとして捉え、支援やサポートを上手に組み合わせることで、日常の困りごとをかなり軽減できます。また、感覚が鋭いということは、その繊細さが強みになる場面も必ずあります。
株式会社プラスイノベーションでは、発達特性のあるお子さまから大人の方まで、IT療育や就労支援を通じてその人の「強み」を引き出す取り組みを続けています。匂いや感覚の過敏さで困っている方、またそのご家族が悩みを整理し、次の一歩を踏み出せるよう、まずはお気軽にご相談ください。
※感覚過敏・発達特性でのご相談もお受けしています