SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは|発達特性のある子どもと大人への実践と活用
SSTとは何か——「社会性は訓練で身につく」という考え方
SSTは、対人関係や集団生活に必要な「ソーシャルスキル」を体験的に習得する訓練です。国立精神・神経医療研究センターによれば、SSTとは「人との上手な接し方や自分の気持ちの伝え方などの社会的スキルを習得するためのトレーニング」と定義されています。一般的には5〜8人程度の小グループで行われ、日常の対人場面を想定したロールプレイや話し合いを通じて学んでいきます。
ここで重要なのは、SSTが「社会性は生まれつきのもので変えられない」という発想と真逆の立場に立っている点です。スキルは学習できる。練習によって変わる。——この前提こそが、SSTが療育や精神科リハビリテーションで長年支持されてきた理由です。
日本では1994年4月に、精神科病棟での「入院生活技能訓練療法」として診療報酬化されたことで、医療分野における有効性が公式に認められました。現在では学校・放課後等デイサービス・就労移行支援など、医療以外のあらゆる支援の場に広がっています。
✓ ソーシャルスキルとは具体的に何を指すか
「ソーシャルスキル」という言葉は意外と広い概念を指しています。対人関係でのコミュニケーションだけでなく、感情のコントロール、状況を読む力(空気を読む力)、断る力、頼む力、問題を解決する力——これらすべてが含まれます。交通機関の利用やお金の管理など、日常生活の基本スキルをSSTの対象に含める定義もありますが、一般的には「他者との相互作用に必要なスキル」を中心に扱います。
ではなぜ、発達障害のある人にとってこれらのスキルが身につきにくいのでしょうか。定型発達の場合、多くの人は周囲の様子を観察し、暗黙のうちに「こういう場ではこう振る舞うもの」を習得していきます。ところが、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)のある人は、この暗黙の学習が起きにくいことがあります。SSTは、その「暗黙」を「明示」に変換するアプローチと言えます。言語化・ステップ分解・練習という手順で、気づけば身についているはずだったスキルを丁寧に教えていくわけです。
SSTの目的と期待できる効果
SSTには大きく二つの目的があります。一つは「生きづらさの軽減」、もう一つは「社会参加の促進」です。対人関係でのつまずきが積み重なると、自己肯定感の低下・不登校・引きこもりへとつながりやすく、早期からのアプローチが重要とされています。
継続的なSSTを通じて、以下のような変化が期待されます。
- ✓ コミュニケーション力の向上:言葉の選び方・声のトーン・表情など、伝わる表現が身につく
- ✓ 自己肯定感の向上:「できた」という体験を積み重ねることで自信につながる
- ✓ 問題解決能力の向上:困った場面で自分なりの解決策を考えられるようになる
- ✓ 感情コントロールの改善:怒りや不安への対処法を言語化して身につけられる
注意点として、SSTはあくまで「スキルの練習」であり、特性そのものを変えるものではありません。「SSTをすれば発達障害がなくなる」という誤解は、当事者や保護者を不必要に傷つけることがあります。目指すのは特性の消去ではなく、特性を持ったまま社会の中でより自分らしく過ごせるようになることです。
SSTの実施の流れ——6ステップで理解する構造
SSTには体系化されたステップがあります。現場によって多少の違いはあるものの、基本的には以下の流れで進みます。このステップを知ることで、なぜSSTが「学習」として機能するのかが見えてきます。
行動分析(アセスメント)
本人がどの場面でどんな困りごとを抱えているかを整理します。「何が難しいのか」を特定しないまま練習を始めても、的外れなトレーニングになってしまいます。ここで目標を具体的かつ小さく設定することがSSTの質を左右します。
インストラクション(教示)
「このスキルはどうして必要なのか」「どんな場面で使うのか」を言葉・視覚情報・具体例を使って説明します。発達特性のある人には、抽象的な説明より「こういうときにはこうする」という具体的なルール提示のほうが届きやすいことが多いです。
モデリング
スタッフや参加者がお手本を実演します。「百聞は一見に如かず」で、実際に見ることでスキルのイメージをつかみやすくなります。動画を使う場合もあり、「うまくいった例」だけでなく「うまくいかなかった例」を見せることで、より立体的に学べます。
ロールプレイ(リハーサル)
実際に場面を設定して練習します。SSTの核心部分であり、「知っている」を「できる」に変えるための反復練習です。失敗しても責められない安全な環境で繰り返すことが、現実の場面への応用力につながります。
フィードバック
練習後に「どこがよかったか」「どこを変えるともっとよくなるか」を伝えます。SSTでは批判的なフィードバックより肯定的なフィードバックを重視します。「○○はとてもよかった。次回は△△を意識してみよう」という流れが基本です。
般化(ハンカ)
練習で学んだスキルを、実際の日常場面に応用する段階です。SSTの難しさの多くはここにあります。施設内で学んでも、家庭や学校・職場で使えなければ意味がないため、ホームワーク(宿題)や日常での意識的な実践がセットで求められます。
「般化」の難しさは、特にASDの特性を持つ人に顕著に現れます。SSTの場面では上手にできても、状況が少し変わると同じように行動できないことがあります。支援者が環境をどう整えるかが、SSTの効果を実際の生活に結びつけるカギになります。
SSTのロールプレイ例——場面別の具体的なテーマ
SSTで扱うテーマは、対象者の年齢・生活環境・特性によって大きく異なります。「正解」は一つではなく、その人の実際の生活でつまずいている場面を起点にすることが重要です。以下に代表的なテーマをまとめます。
✓ 子ども向けのロールプレイ例(小学生・中学生)
✓ 大人・就労場面向けのロールプレイ例
就労支援の現場でSSTが求められるのは、「仕事のスキルはあるのに職場でうまくいかない」というケースへの対応です。以下のようなテーマが多く取り上げられます。
- わからないことを上司に質問する(タイミング・言葉の選び方)
- 体調が悪いときの欠勤連絡・早退の申し出
- 苦手な業務を断る・代替案を提案する
- 雑談への参加・切り上げ方
- ストレスをためずに自己開示する(困っていることを伝える)
就労場面でのSSTで見落とされがちなのが「断る練習」です。発達障害のある人は頼まれたことをすべて引き受けてしまいオーバーフローするケースが多く、無理のない範囲で働き続けるためには「適切に断る」スキルが不可欠です。ところが、断ることへの強い罪悪感が邪魔をするため、練習を繰り返してその体験を解体していく必要があります。
発達障害とSSTの関係——ASDとADHDでアプローチは変わる
発達障害があるからといって、SSTへのアプローチが同じでよいわけではありません。ASDとADHDでは、ソーシャルスキルの獲得が難しい理由が異なるため、それぞれの特性に合わせた工夫が求められます。
✓ ASD(自閉スペクトラム症)へのSST
ASDの特性として、相手の表情・声のトーン・文脈から意図を読み取ることが難しいことがあります。そのため、SSTでは「視覚的なヒントの活用」が非常に重要です。表情カードや感情チップを使ったり、場面絵(ソーシャルストーリー)でシチュエーションを図解したりする工夫が効果的とされています。
また、ASDの人は一度習得したスキルが「この場面」に限定されやすい(般化しにくい)傾向があります。「放課後等デイサービスでは挨拶できるのに、学校ではできない」というのはよくある話です。様々な環境・相手・シナリオでの練習を意図的に積む必要があります。
✓ ADHD(注意欠如多動症)へのSST
ADHDの場合、スキルの「知識」は持っていても「場面での実行」に困難があることが多いです。衝動的に発言する、順番を待てない、相手の話を最後まで聞けないといった場面がその典型です。つまり「わかっているけどできない」という状態が生じやすい。
ADHDへのSSTでは、短い練習単位の繰り返しと即時のポジティブフィードバックが効果的とされています。また「止まる・考える・行動する」というステップを言語化して体に刷り込む、「思考の一時停止」技法も有効です。感情の爆発を防ぐアンガーマネジメントとSSTを組み合わせるアプローチも、現場では広く使われています。
「長年楽しく通所しています。クラスが上がったり年下の子に憧れられたりすることで、自己肯定感・自尊心が向上しています。グループ活動の中でソーシャルスキルが自然に身についていくのを実感しています。」
SSTを受けられる場所——子どもから大人まで
SSTはどこで受けられるのか。年齢・状況によって最適な場所は異なります。以下に主な選択肢を整理します。
✓ 放課後等デイサービス(子ども向け)
小学生〜高校生を対象とした福祉サービスで、SSTを療育プログラムの一部として取り入れている施設が多くあります。グループでの活動を通じて、ロールプレイや感情理解のプログラムが行われます。受給者証を使って利用できるため、費用面でも負担が少なくなります。
✓ 就労移行支援・自立訓練事業所(大人向け)
就労を目指す障害のある方が利用できる施設です。仕事場面を想定したSSTが体系的に行われており、実際の面接練習や職場でのコミュニケーション訓練と組み合わせて実施されます。特に、就職後の定着支援でSSTが活きる場面は多く、現場での具体的な困りごとに対応したカスタマイズが可能です。
✓ 精神科・医療機関(デイケアなど)
統合失調症・うつ病・双極性障害などの方を対象に、精神科デイケアでSSTが行われています。1994年に保険診療化された歴史からもわかるように、精神科リハビリテーションの文脈ではSSTは中核的な位置づけです。看護師や作業療法士がSSTのリーダーとして関わるケースも多く、チームでの支援が充実しています。
✓ 学校・特別支援教育の現場
小学校・中学校の特別支援学級や通級指導教室でもSSTが実施されています。東京都福祉局は学校向けのSSTガイドを公開しており、教員が使える具体的なプログラムも整備されています。通常学級での朝の会・帰りの会を活用したミニSST(短時間の感情チェックや役割練習)も広がっています。
✓ 家庭でできるSST
施設でのSSTは週に数回が限界ですが、日常生活のあらゆる場面がSSTの練習になり得ます。買い物でのやりとり、食事の準備を手伝いながらの会話、ゲームや読み聞かせを通じた感情理解——これらを意識的に活用することで、般化のための素地を日々の生活の中で作ることができます。保護者がSSTの基本的な考え方を知っておくと、子どもへの声かけが変わります。
「うちの子に合ったSST、どこで受けられるの?」
プラスイノベーションのKid'sTECHでは、IT療育の中にSSTの要素を自然に組み込んでいます。グループワーク・プロジェクト活動・発表練習などを通じて、コミュニケーションスキルを楽しみながら育てます。まずは無料相談・見学からどうぞ。
無料相談・見学予約はこちら受給者証をお持ちの方はほぼ無料でご利用いただけます
SSTに使う教材——ワークブック・感情チップ・場面カード
SSTを効果的に進めるためには、教材の選定が重要です。「言葉だけで説明する」のではなく、視覚的な補助を使うことで、特に発達特性のある人への伝わり方が大きく変わります。
本(ワークブック)
場面ごとのシナリオや感情の整理シートが入ったワークブックは、SSTのセッション外でも自習できる点が強みです。井澤信三ら編著の書籍や、小島道生らによる特別支援教育向けのSST教材など、実践的なものが出版されています。「こんなときどうする?」という問いに答えながら自分のパターンを客観視できます。
場面カード
「友達に嫌なことをされた」「先生に怒られた」など、日常の対人場面をイラストで表したカードです。子どもにとっては「このとき自分ならどうする?」と考えるきっかけになり、支援者にとっては子どもの思考パターンを把握するアセスメントツールにもなります。
感情チップ(気持ちチップ)
「うれしい」「怒っている」「さびしい」などの感情をアイコンやカラーで表現したチップです。特に自分の感情を言語化することが難しい子どもにとって、「これが今の気持ち」と選んで見せることができるため、コミュニケーションの橋渡しになります。使い方のポイントは、「正解を押しつけない」こと。「今の気持ちはどれに近い?」と聞き、子どもが選んだものを受け入れることが、感情表現への安心感を生みます。
IT療育とSSTの組み合わせ——Kid'sTECHの実践から
一般的なSSTは、「練習のための練習」になりやすいという弱点を抱えています。子どもにとって、架空の場面でロールプレイをすることへの動機づけが続きにくいのです。「なんでこんな練習するの?」という疑問が生まれると、学習効果も落ちます。
プラスイノベーションが運営する放課後等デイサービス「Kid'sTECH(キッズテック)」では、この課題をITを活用することで解決しています。プログラミングやゲーム開発をチームで取り組む中で、自然なかたちでSSTの実践が生まれる設計です。
たとえば、グループでゲームを制作するプロジェクトでは、役割の分担・意見の伝え方・完成に向けた調整というプロセスが必ず生じます。これは、「意見を言う」「折り合いをつける」「助けを求める」というSSTのテーマそのものです。子どもたちは「SSTの練習をしている」とは意識せず、夢中で取り組みながらソーシャルスキルを積んでいきます。
また、トークンエコノミー法(行動目標を達成するとポイントが貯まる仕組み)を取り入れることで、成功体験が目に見える形で積み重なります。「褒めてもらえた」という体験が自己肯定感を育て、次の挑戦へのモチベーションになります。
「ゲーム好きがプログラミングへの興味につながり、得意なことが増えて自信になっています。チームでの制作活動を通じて、自分から話しかけられるようになってきました。」
SSTを実施する際に支援者が意識すべきこと
SSTを行う側——放課後等デイサービスのスタッフ、学校の教員、就労支援員、保護者——それぞれが意識しておくべき点をまとめます。これらは、支援の質を左右する実践的なポイントです。
SSTは「矯正」ではなく「拡張」であるという姿勢が根本にあります。特性があっても問題ない。ただ、困らないように選択肢を増やしていく。この方向性を見失うと、SSTは本人にとって苦痛な「ダメ出しの時間」に変わってしまいます。
次に重要なのが「般化」への積極的な関与です。施設でのセッションと日常生活をつなぐ役割を支援者が担わない限り、スキルは練習場所に留まります。保護者への情報共有・連携シートの活用・ホームワークの設計など、施設の外での実践を後押しする仕掛けが必要です。
また、「この子は今何に困っているか」というアセスメントを定期的に見直すことも重要です。子どもの成長に伴い、困りごとのポイントは変化します。小学校低学年では「友達の誘い方」が課題だった子が、中学生になると「グループ内での発言の仕方」が課題になることはよくあります。支援の目標が子どもの実態に追いついていないと、SSTは効果を発揮しにくくなります。
就労支援としてのSST——CYBER TECH ACADEMYの取り組み
SSTの活用は子ども期に留まりません。成人した後も、就労場面でのコミュニケーション課題を抱える方は少なくありません。プラスイノベーションが運営する自立訓練事業所「CYBER TECH ACADEMY(サイバーテックアカデミー)」では、IT就労に向けたプログラムの中にSSTの要素が組み込まれています。
対象は精神障害・発達障害のある18歳以上の方で、最長2年間のプログラムを通じて、IT技術の習得と並行して「働くためのソーシャルスキル」を練習します。模擬プロジェクトの中で「進捗を報告する」「不明点を確認する」「仕様変更を伝える」といった、実際の職場で求められる具体的なシーンでの練習が行われます。
「勉強はできるのに、職場の人間関係で悩む」「仕事のスキルはあるのに、コミュニケーションでつまずいて離職した」という経験を持つ方にとって、就労前にこうしたSSTを体系的に経験できる場は貴重です。作業療法士や心理士が常駐しており、技術訓練と心理支援をセットで受けられます。
SSTに関するよくある疑問
✓ SSTの資格・研修はあるか
一般社団法人SST普及協会(JASST)が認定する「SST認定講師」の制度があります。普及講師(基礎)・公認講師・スーパーバイザーと段階的なレベルがあり、支援職・医療職・教育職など幅広い職種の方が取得しています。研修は全国で定期的に開催されており、支援の質を高めたい方には積極的に活用が推奨されています。
✓ SSTと認知行動療法の違いは何か
SSTは認知行動療法(CBT)と重なる部分が大きく、切り離して考えるのは難しいです。CBTが「思考のパターンを変える」ことを重視するのに対し、SSTは「行動スキルの習得」をより直接的な目標とします。実際の支援現場では両者を組み合わせるケースが多く、「考え方のくせに気づき(CBT)+対処法を練習する(SST)」という形が有効です。
✓ 個別指導と集団指導、どちらがよいか
これは一概に言えません。個別指導は、本人のペースで丁寧に進められ、過去のトラウマや強い不安がある場合に向いています。集団指導は、実際の対人場面に近い状況でのリアルな練習ができ、般化しやすいという強みがあります。多くの施設では両方を組み合わせており、個別で「基本を習得→集団で実践練習」という流れが効果的とされています。
SSTについて、プラスイノベーションに相談してみませんか
「SSTを受けさせたいけれど、どこに相談すればいいかわからない」「うちの子の特性に合ったプログラムがあるか不安」——こうした声は、支援の入口でよく聞かれます。
プラスイノベーションは2016年から、発達特性のある子どもたちへのIT療育を積み重ねてきた会社です。放課後等デイサービス「Kid'sTECH」では、プログラミングやゲーム制作を通じてSSTの要素を自然に組み込んだ療育を行っています。臨床心理士・公認心理師が常駐し、お子さまの特性やご家庭の状況に合わせた支援プランを一緒に考えます。
就労を目指す大人の方には「CYBER TECH ACADEMY」で、IT技術とソーシャルスキルを両輪で身につける訓練が受けられます。見学・個別相談は無料で受け付けていますので、まずは気軽にお問い合わせください。
兵庫県尼崎市・東京都蒲田・フランチャイズ各地、オンライン相談にも対応