後天性ADHDは本当に存在するのか|医学的根拠と症状への向き合い方
ADHDは後天的に発症するのか――医学的な立場から
結論から述べると、現在の医学的コンセンサスではADHDは先天的な脳の特性であり、後天的に発症するものではありません。ADHD(注意欠如多動性障害)は、ドーパミンやノルエピネフリンといった神経伝達物質の調節機能が生まれつき異なることで生じる特性です。
アメリカ精神医学会が定める診断基準DSM-5においても、診断要件のひとつとして「12歳以前に複数の症状が存在していたこと」が明示されています。つまり大人になってから初めてADHDと診断されたとしても、その特性はすでに幼少期から存在していたことが前提となります。
✓ 遺伝的要因と脳の発達
ADHDの遺伝率は約70〜80%と報告されており、双子研究や家族研究によって強い遺伝的背景があることが繰り返し確認されています。また、遺伝的要因に加え、胎児期の低出生体重・早産・母親の喫煙や飲酒暴露なども発症リスクを高める要因として知られています。
重要なのは、これらすべてが「生まれる前または生まれた直後の時点で脳の発達に影響を与える」要因であるという点です。環境刺激や生活習慣が後から脳のドーパミン系を根本的に書き換えてADHDを「新たに生成する」というメカニズムは、現時点では医学的に確認されていません。
✓ 大人になってから診断される理由
では、なぜ「大人になってからADHDと診断された」という声が増えているのでしょうか。これには主に三つの背景があります。
第一に、子ども時代の環境が特性を目立たなくさせていたケースです。少人数クラスや家族のサポート、親の采配によって管理されていた生活が社会人になったとたんに崩れ、不注意や多動・衝動性が表面化することがあります。第二に、ADHDに関する社会的認知度が過去10〜20年で急速に高まり、受診のハードルが下がったこと。第三に、女性や軽度の特性を持つ方は幼少期に見過ごされやすく、成人になって初めて診断を受ける割合が高いことが挙げられます。
すなわち「後天的にADHDになった」のではなく、「もともと持っていた特性が、環境や加齢とともに表面化した」というのが正確な理解です。
「後天性ADHD」という言葉が広まった背景
「後天性ADHD」という表現がなぜ市民権を得てきたのか。その大きな要因のひとつが、デジタルメディアの過剰使用とADHD症状の関連を示す研究の登場です。
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)などの研究チームが2018年に発表した論文では、ソーシャルメディアや動画・テキストメッセージを頻繁に使用していた10代の若者(ADHDなし)を2年間追跡したところ、デジタルメディアの使用頻度が高いほどADHD症状スコアが上昇しやすいことが示されました(JAMA誌掲載)。この研究が国内外で大きく取り上げられ、「ネットの使いすぎでADHDになる」という解釈が拡散されました。
✓ 大人のADHD有病率が急増している現実
一方で、大人のADHD診断数が増加していることは統計的な事実です。米国の調査(2020年・JAMA Psychiatry掲載)によると、成人のADHD有病率は過去20年間で約4%台から6〜7%台に上昇しています。ただしこの増加の主因は「診断基準の改定」「認知度向上による受診者増加」とされており、「環境が新しいADHDを作り出した」という解釈とは異なります。
つまり「後天性ADHD」という言葉の背景には、①長年見過ごされてきた特性が可視化されるようになった現象と、②デジタル過多の現代社会がADHD的症状を誘発しやすい環境を作り出しているという、性質の異なる二つの現象が混在しています。この二つを区別して考えることが、適切な対処につながります。
後天的にADHD様症状を引き起こす主な要因
ADHDそのものは先天的であっても、ADHDと似た症状――不注意・衝動性・感情の波・集中困難――が後天的に生じることは確かにあります。こうした状態は「二次的ADHD様症状」と呼ぶのが適切で、背景にある原因を特定することが改善への第一歩となります。
✓ 過度なストレスやトラウマ
慢性的なストレスや心理的トラウマは、前頭前皮質の機能を低下させます。前頭前皮質は実行機能(計画・抑制・注意の切り替えなど)を担う領域であり、ここが機能不全に陥るとADHDと酷似した症状が現れます。うつ病・不安障害・PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神疾患でもADHD様症状が出やすく、専門家による鑑別診断が欠かせない理由はここにあります。
特に職場でのバーンアウト(燃え尽き症候群)との見分けが難しいケースが増えています。長時間労働や過度なプレッシャーが続いた後に「仕事のミスが増えた」「物忘れが激しくなった」と感じるとき、それはADHDではなく慢性疲労やバーンアウトである可能性を先に検討すべきです。
✓ デジタル過多がもたらす注意力の変容
スマートフォンやSNSが常に短時間での快楽報酬(「いいね」の通知、短尺動画の連続視聴など)を脳に与え続けると、長時間ひとつのことに集中する能力が相対的に低下していく可能性があります。これはADHDの「発症」ではなく、脳の報酬系が刺激に慣れることで起きる適応的変化です。
重要な点は、この変化は可逆的であるということです。デジタル利用を意図的に制御し、まとまった集中時間を日常に取り戻すことで、多くの場合は症状が緩和します。これが真のADHD特性との大きな違いであり、生活環境の見直しで大きく改善するかどうかが鑑別の参考になります。
✓ 睡眠障害・栄養不足・甲状腺機能の異常
見落とされがちですが、慢性的な睡眠不足・鉄欠乏性貧血・甲状腺機能低下症なども、不注意や多動感、感情の不安定を引き起こすことが知られています。これらは血液検査や睡眠検査で確認できる身体的原因であり、ADHDとは別のアプローチで対処できます。「もしかしてADHDかも」と感じたとき、まず内科的な検査を受けることを専門家は勧めています。
先天性の特性か、後天的な症状か――見極めのポイント
「自分はADHDなのか、それとも別の何かなのか」を自己判断することは難しいですが、以下の観点から振り返ることが受診時の参考になります。
これはあくまで参考であり、確定診断は精神科・心療内科の医師による問診・心理検査によって行われます。自己診断で結論を出さず、気になる症状が続くようであれば専門家への相談を優先してください。
ADHDの特性と日常生活で向き合うために
診断の有無に関わらず、不注意・衝動性・感情の波といった症状に悩んでいるなら、日常生活のなかで対処法を取り入れることが重要です。医学的な根治療法がある種の症状に対して有効であるとしても、日々の生活をどう設計するかが長期的な安定につながります。
✓ 環境設計で「失敗しにくい構造」を作る
ADHDの特性がある方に最も効果的なアプローチのひとつが「環境設計」です。意志の力で乗り越えようとするより、そもそも失敗が起きにくい仕組みを外側から作ることのほうが、再現性があります。
たとえば、机の上には今取り組む作業の道具だけを置く、スマートフォンのSNSアプリを使用時間制限アプリで管理する、タスクはA4紙一枚に今日やることだけ書き出して常に視界に入れる。こうした「外在化」の工夫は、認知行動療法の文脈でも推奨されている手法です。
✓ 強みを活かせる場を見つける視点
ADHDの特性は弱みとして語られることが多いですが、視点を変えれば強みになる側面を持っています。過集中(特定の興味あることへの高い没頭力)、創造性、リスクを恐れない行動力、豊かな発想力――これらはIT・クリエイティブ・起業家的な仕事と非常に相性がよいことが、実際の現場経験からも確認されています。
「できないこと」を補う支援と同じくらい、「できること」を伸ばす機会をいかに確保するかが、長期的な自立や就労の安定に直結します。
ADHDの二次障害を防ぐために知っておきたいこと
ADHDの特性を持ちながら長年支援なく過ごしてきた場合、うつ病・不安障害・社会的引きこもりといった二次障害を発症するリスクが高まります。成人期になってから初めてADHDと診断される方の多くが、すでに何らかの二次障害を抱えているというのは、支援の現場で繰り返し確認されている現実です。
二次障害の厄介な点は、ADHDの特性そのものより深刻な生活上の支障を引き起こすことがある、という点です。「自分はダメだ」「なぜ普通のことができないのか」という自己否定の積み重ねが、うつや対人恐怖につながりやすい。早期に特性を理解し、適切な支援や環境調整につなぐことが二次障害の予防に欠かせません。
「後天性ADHD」という言葉に引っかかって情報を調べ始めた方は、すでに何らかの苦しさを感じているはずです。その苦しさの正体が何であれ、専門家へのアクセスを先延ばしにするほど状況が複雑になりやすいことを知っておいてほしいと思います。
発達特性による就労や生活のお悩みは、株式会社プラスイノベーションにご相談ください。
就労継続支援B型「ワークリンク尼崎」や自立訓練「CYBER TECH ACADEMY」では、ITスキルを軸にした就労支援を行っています。
※まずはお気軽にご相談ください
ADHDの特性を持つ大人が活用できる支援制度
成人のADHD当事者が使える支援は、認知度が上がるにつれて整備が進んでいます。ただし、制度の種類が多いために「何から始めればよいか分からない」という声も少なくありません。ここでは代表的な選択肢を整理します。
✓ 医療機関での診断と治療
まず精神科または心療内科への受診が出発点です。問診・心理検査(CAARS、WAIS-IVなど)を通じて診断が行われ、必要に応じて薬物療法(コンサータ・ストラテラ・インチュニブなど)や認知行動療法が提案されます。薬物療法は不注意・多動・衝動性を軽減するうえで有効性が認められており、成人のADHD治療においても保険適用となっています。
✓ 就労支援・自立訓練
障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳を取得すると、就労移行支援・就労継続支援・自立訓練といった福祉サービスを利用できます。これらは職業的なスキル習得と生活リズムの安定を同時に支援する仕組みで、ADHDによる就労困難を抱える方にとって有力な選択肢です。
株式会社プラスイノベーションが運営する就労継続支援B型「ワークリンク尼崎」では、データ入力・Web業務・SNS運用・YouTube動画編集など、パソコンを中心としたIT作業を通じて工賃を得ながらスキルを磨けます。在宅勤務対応もあり、うつ状態による体調の波がある方でも無理のないペースで継続しやすい環境が整っています。
また、自立訓練「CYBER TECH ACADEMY(サイバーテックアカデミー)」では、最長2年間のプログラムでITエンジニア・Webデザイナー・バックオフィス職を目指す訓練が受けられます。現役エンジニアや作業療法士、公認心理師がチームで関わる体制は、特性のある方が実務スキルを身につける場として機能しています。訓練修了後の就労先として自社ITソリューション部門があることも、安心感につながっています。
「うつの状態に合わせて無理なく働けるだけでなく、不安なときにはオンラインで心理カウンセラーさんが話を聞いてくれるので、心の支えにもなっています。尼崎にB型事業所でパソコン業務の在宅ができるなんて、正直驚きました。」
「後天性ADHD」という言葉に出会ったときの正しい考え方
この記事を読み終えて、「では私はADHDではなかったのか」「症状は気のせいだったのか」と感じた方がいれば、それは違います。自分自身が感じている不注意・衝動性・集中困難は、原因がADHDであれそれ以外であれ、現実に生活に支障をきたしているならば、支援を受けるに値する困難です。
「後天性ADHDは医学的には存在しない」という事実は、「あなたの苦しさには根拠がない」ということを意味しません。むしろ、原因を正確に理解することが適切な対処への近道になります。先天的な特性があるのか、ストレスや生活習慣の影響なのか、あるいはその両方なのか――それを専門家と一緒に探ることが、状況を改善する最初の一歩です。
ADHDの特性は、適切な環境と支援があれば、むしろ仕事や創造的な活動において大きな力になりえます。弱みとして扱われ続けてきた特性が、視点を変えることで強みに転じる瞬間を、プラスイノベーションは10年近くにわたって支援の現場で見てきました。
プラスイノベーションに、まずご相談を
株式会社プラスイノベーションは、発達特性を持つ方の「療育から就労まで」を一貫して支援するIT特化型の支援機関です。2016年の設立以来、「弱みを探すのではなく、強みで生きる」という理念のもとに、ADHD・ASD・LDをはじめとする特性のある方に寄り添ってきました。
「後天性かもしれないと思って調べてみた」「仕事が続かない」「自分の特性とどう向き合えばいいかわからない」――どんなきっかけでも構いません。まずは無料相談・見学から気軽にお声がけください。特性を活かした就労の可能性について、一緒に考えます。
発達特性を「強み」に変える支援を、プラスイノベーションで。
尼崎・大阪・東京を中心に、就労継続支援B型・自立訓練・放課後等デイサービスを展開中。
まずは無料相談・見学からどうぞ。
TEL:06-6415-6977(平日受付)