恐怖症の種類・一覧|3大恐怖症から珍しいものまで原因・症状・治療を解説
恐怖症とは何か
日常会話では「クモが怖い」「高所恐怖症かも」などの言い方をしますが、医学的な恐怖症は少し異なる意味を持ちます。精神医学の国際診断基準(DSM-5)では、特定の対象や状況に対して著しく強い恐怖または不安が持続し、その恐怖が実際の危険に不釣り合いで、かつ生活・社会機能に支障をきたしている場合に「限局性恐怖症(特定の恐怖症)」と診断されます。
つまり「怖いな」という感覚はあくまで自然な感情であり、それ自体は病気ではありません。問題になるのは、その恐怖を避けるための行動(回避行動)が日常生活を制限したり、恐怖対象と遭遇したときに強い苦痛やパニック発作が起きたりするほどの状態が6か月以上続く場合です。
✓ 俗称としての「恐怖症」との違い
世間では「〇〇恐怖症」という言葉がかなりカジュアルに使われます。「歯医者恐怖症」「プレゼン恐怖症」など、実際に診断をともなうものではないケースも多いです。本記事では、医学的な限局性恐怖症の説明を軸にしながらも、こうした俗称で広く認知されているものも含めて紹介しています。
また、「社交不安症(対人恐怖症)」や「広場恐怖症」は限局性恐怖症とは別に分類される疾患で、それぞれ独立した診断基準があります。似ているようで対処法も異なるため、気になる症状があるときは専門家への相談が最善です。
恐怖症の種類一覧
DSM-5では限局性恐怖症を5つのタイプに大別しています。ただし実際の症状は複数のタイプにまたがることも珍しくなく、分類はあくまで目安です。以下では、医学的な分類を軸に多くの恐怖症をまとめました。
✓ 動物型
特定の動物や虫に強い恐怖を抱く類型です。幼少期に恐ろしい体験をしたり、親が怖がる姿を見て学習したりすることで形成されやすいことが研究でも示されています(Öst, L.-G., 1991「Phobias」など)。主な例は以下の通りです。
✓ 自然環境型
高所・嵐・水など、自然環境に関連した恐怖です。日本では高所恐怖症の認知度がとくに高く、「3大恐怖症」の一角として挙げられることも多い類型です。
- 高所恐怖症(Acrophobia):高い場所で強い恐怖・めまい・硬直が起きる。エレベーターや陸橋を避けることで生活が制限されるケースも。
- 暗所恐怖症(Nyctophobia):暗闇に対する過剰な恐怖。子どものころの経験が持続するケースが多い。
- 水恐怖症(Aquaphobia):水全般に強い恐怖を感じる。溺れかけた体験が原因になることが多い。
- 雷恐怖症(Astraphobia):雷や稲妻に対する恐怖。台風シーズンに生活が大きく乱される方も。
- 海洋恐怖症(Thalassophobia):海そのもの、あるいは広大な海の深さや暗さへの恐怖。
✓ 血液・注射・外傷型
他の恐怖症と異なり、この型では恐怖対象に遭遇したときに血圧が上がった後に急激に下がり、失神(血管迷走神経失神)が起きることがあります。これは他の恐怖症と本質的に異なる生理反応であり、治療でもその点が考慮されます。
代表的なものとして、血液恐怖症(Hemophobia)、注射恐怖症、先端恐怖症(Aichmophobia:針・刃物など尖ったものへの恐怖)があります。先端恐怖症はとくに日本語話者に認知度が高く、検索ボリュームも安定しています。
✓ 状況型
特定の状況や環境への恐怖です。パニック障害と合併しやすく、見分けが難しいケースもあります。
- 閉所恐怖症(Claustrophobia):エレベーター・電車内・MRI装置など、閉じた空間への強い恐怖。パニック発作の引き金になることも多い。
- 飛行機恐怖症(Aviophobia):航空機の搭乗への恐怖。墜落への恐怖だけでなく「コントロールできない状況」への不安が主因であることが多い。
- 学校恐怖症(School Phobia):学校という場所・環境への強い恐怖や不安。不登校の背景にあることもある。
✓ その他の型
上記4つに分類しきれないものがここに含まれます。集合体恐怖症(Trypophobia:小さな穴や凸凹の集合体への不快感・恐怖)がこの典型例で、近年ネット上での認知が急速に広まりました。ただし集合体恐怖症はDSM-5の公式診断には含まれておらず、研究途上にある概念であることも押さえておく必要があります。
その他、嘔吐恐怖症(Emetophobia)・巨大物恐怖症・宇宙恐怖症なども「その他の型」に分類されます。
珍しい恐怖症・ユニークな恐怖症
「こんなものも恐怖症になるのか」と驚くような対象への恐怖も数多く存在します。これらは医学的に確立されたものも、俗称として広まったものも混在していますが、当事者にとっては深刻な苦痛をともなうケースもあります。
「なぜそんなものが怖いのか」と不思議に思う人もいるでしょうが、感覚過敏や過去のトラウマ体験が背景にあることが多く、本人にとっては理屈では割り切れない苦痛です。とくに感覚過敏は発達障害(ASD・ADHDなど)のある方に多く見られる特性であり、特定の感触・音・視覚刺激への強い反応が、恐怖症に似た状態をつくることがあります。
対人恐怖症・社交不安系の恐怖症
人間関係・社会的な場面に関連した恐怖症は、日本では特に身近に感じる方が多いカテゴリーです。以下は医学的な「社交不安症」と重なる部分も多いですが、俗称として認知されているものも含めて紹介します。
- 対人恐怖症(Social Phobia):他者の目線や評価への過剰な恐怖。欧米の「社交不安症」と似ていますが、日本では「他者に迷惑をかけてしまうのではないか」という独自の側面が強く、文化的背景を反映した症状パターンとして注目されています。
- 赤面恐怖症(Erythrophobia):人前で顔が赤くなることへの恐怖。赤面すること自体への恐れが二次的な緊張を生み、悪循環に陥りやすい。
- 笑われ恐怖症・失笑恐怖症(Gelotophobia):他者に笑われることへの過剰な恐怖。「馬鹿にされている」という認知の偏りが関係する。
- 男性恐怖症(Androphobia)/女性恐怖症(Gynophobia):特定の性別を持つ人との接触への強い恐怖。性被害やいじめなどのトラウマ体験が背景になることが多い。
- 電話恐怖症(Telephonophobia):電話での会話への恐怖。「即座に回答が求められる」という状況への不安が主な要因。近年テキストコミュニケーションが主流化する中で、若い世代での増加が報告されています。
恐怖症の原因と症状
✓ なぜ恐怖症になるのか
恐怖症の発症には大きく「遺伝的要因」と「環境的要因」の両方が関わっています。
遺伝的な観点では、不安を感じやすい神経系の傾向(不安感受性の高さ)が親から子へ引き継がれることが、双子研究などで示されています。ただしこれはあくまで「なりやすさ」の素因であり、環境的な体験がなければ恐怖症として顕在化しないのが一般的です。
環境的な要因としてとくに大きいのが「直接的な恐怖体験」です。犬に噛まれた、高い場所から落ちかけたなどの体験が、脳内でその対象と「危険」が結びつく古典的条件付けを生み出します。また、親が特定のものを怖がる様子を繰り返し見て育つ「代理学習」や、「〇〇は危険だ」という情報を繰り返し聞かされる「情報学習」でも発症することがあります。
✓ 恐怖症のおもな症状
恐怖症の症状は身体・精神・行動の3つのレベルで現れます。
身体症状として代表的なのは、動悸・息切れ・発汗・手足の震え・めまい・吐き気です。これらはいずれも、脳が「危険だ」と判断したときに起動する交感神経の反応(いわゆる闘争・逃走反応)です。恐怖対象が実際には安全であっても、脳の扁桃体が「危険シグナル」を発してしまうために起きます。
精神症状では、恐怖対象への強い不安感・恐怖感・自分がおかしくなってしまうかもしれないという感覚(離人感)が生じます。また「次に遭遇したらどうしよう」という予期不安が、恐怖対象と関わりのない日常場面でも頭を離れなくなることがあります。
行動面では、恐怖対象を徹底的に避ける回避行動が生じます。これが問題の核心で、回避すること自体は短期的に不安を和らげますが、長期的には「その対象は本当に危険だ」という認知を強化してしまいます。たとえば飛行機を避け続けることで、「飛行機は危険だ」という信念がより固まってしまうわけです。
恐怖症の診断基準(DSM-5より)
限局性恐怖症の診断は、精神科・心療内科の専門家が行います。セルフチェックや問診票はあくまで参考であり、診断は医師の判断によります。DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)に示された主な基準を要約すると、次の通りです。
- 1 特定の対象・状況に対して、著しい恐怖または不安がある
- 2 恐怖対象はほぼ常に即座の恐怖・不安反応を引き起こす
- 3 本人も「恐怖が過剰または不合理だ」とわかっていることが多い
- 4 恐怖対象を回避するか、強い苦痛を感じながら耐えている
- 5 生活・社会・職業機能に著しい支障をきたしている
- 6 症状が6か月以上続いている
重要なのは「本人が合理的でないとわかっていても止められない」という点です。「怖いと思うから気合でどうにかすべき」という周囲の声は、残念ながら症状の改善にはつながりません。恐怖は脳の自動反応であり、意志の力で即座にコントロールするには限界があります。
恐怖症の治療方法
恐怖症は「治りにくい」というイメージを持たれることがありますが、実際には適切な治療によって多くの方が大幅な改善を経験しています。
✓ 曝露療法(エクスポージャー)が治療の中心
現在、恐怖症治療においてエビデンスが最も確立されているのが「曝露療法(暴露療法)」です。段階的に恐怖対象に接近し、「この状況は本当は安全だ」と脳に学習させる治療法で、認知行動療法(CBT)の技法のひとつです。
たとえば高所恐怖症であれば、「階段の2段目から外を見る→ベランダに出る→低い展望台へ行く→高層ビルの展望台へ行く」というように、不安の少ない場面から始めて少しずつレベルを上げていきます。回避行動を取らずに「不安はいずれ自然に下がる(慣れる)」という体験を積み重ねることが回復の鍵です。
近年はVR(仮想現実)を使った曝露療法も注目されており、飛行機恐怖症や高所恐怖症などで実臨床での活用が始まっています。
✓ 薬物療法の位置づけ
恐怖症に対して薬物療法が単独で使われるケースは多くありません。ただし、飛行機搭乗など特定の状況に限定した場合に抗不安薬を一時的に用いることがあります。また、社交不安症(対人恐怖症)を合併している場合はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が処方されることもあります。薬は「恐怖を消す」ものではなく「不安を一時的に和らげ、曝露療法に取り組みやすくする」ための補助として捉えるのが適切です。
発達特性と恐怖症・不安症状が重なるとき
お子さまや成人当事者の中には、特定の音・触感・匂いへの強い反応(感覚過敏)が恐怖症に似た状態をつくっていたり、そのことが不登校・就労困難につながっていたりするケースがあります。こうした状態は、通常の恐怖症の文脈だけで捉えていると、なかなか改善につながりません。
発達障害(ADHD・ASD・LDなど)のある方は、不安障害や恐怖症を合併しやすいことがメタ分析でも示されています。また特性として「一度恐怖と結びついた対象に対してこだわりが強くなる」「感覚刺激への閾値が低い」という点があり、恐怖症の発症・維持に独自のメカニズムが関わっています。
大切なのは、発達特性を「弱み」として捉えるのではなく、特性に合った適切な環境と支援を整えることです。強みを活かせる環境があれば、多くの方が自分らしい生活・就労を実現しています。
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恐怖症が生活・就労に影響するときに使える支援制度
恐怖症や不安症状が日常生活・仕事に支障をきたしている場合、利用できる支援・制度があります。
✓ 自立支援医療制度(精神通院医療)
精神科・心療内科への通院費用が1割負担になる制度です。医師の診断書をもとに申請し、認定を受けた医療機関・薬局での費用が対象になります。恐怖症で継続通院が必要な方は、まず担当医に確認してみてください。
✓ 就労移行支援・就労継続支援B型
恐怖症や精神的な不調が就労に影響している場合、障害福祉サービスとして「就労移行支援」や「就労継続支援B型」を活用できる可能性があります。就労移行支援は一般就労を目指す訓練の場、就労継続支援B型は通いながら軽作業・在宅業務に取り組む場です。プラスイノベーションのワークリンク尼崎はIT・パソコン業務に特化したB型事業所として、在宅勤務対応や心理担当スタッフによるサポートを提供しています。
✓ 傷病手当金
会社員が恐怖症・不安障害で休職した場合、健康保険の傷病手当金を最大1年6か月間受給できます(要医師の証明・在職中の保険加入が条件)。休職中の生活費不安を軽減し、治療に専念するための大切な制度です。
まとめ:恐怖症は一人で抱え込まなくていい
恐怖症には数百を超える種類があり、動物・自然環境・血液・状況・対人など多岐にわたります。その中には「こんなものが怖いなんておかしい」と自己否定につながりやすいものも少なくありませんが、恐怖症は脳の条件づけに由来するものであり、意志の弱さや性格の問題ではありません。
また、発達特性(ADHD・ASD・LDなど)のある方は感覚過敏や不安の処理の特性から、恐怖症や不安症状を抱えやすい傾向があります。特性を「弱み」ではなく「個性」として捉え直し、適切な支援・環境とつながることで、多くの方が自分らしい生活と就労を実現しています。
「もしかしたら自分のお子さまにもあてはまるかもしれない」「自分自身が長年悩んできた不安や恐怖がある」という方は、まず専門家への相談を検討してください。一人で抱え込まず、支援につながることが、回復への大きな一歩です。
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参考資料
- American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed.). DSM-5.
- Öst, L.-G. (1991). Acquisition of blood and injection phobia and anxiety response patterns in clinical patients. Behaviour Research and Therapy, 29(4), 323–332.
- 国立精神・神経医療研究センター「不安障害・恐怖症の診療情報」(参考)