感音難聴とは何か|原因・症状・検査から仕事・日常生活への対処まで
感音難聴とは何か
耳の構造をざっくりと整理すると、音は外耳道を通り鼓膜を振動させ、耳小骨という小さな骨を伝わって内耳(蝸牛)に届きます。蝸牛では、物理的な振動が電気信号に変換され、聴神経を通じて脳へと送られます。感音難聴は、この「内耳から脳への経路」に問題が生じた状態です。
音量を上げれば解決できる「音が届かない」問題ではなく、届いた音を正しく処理できないという点が、感音難聴の本質的な難しさです。テレビの音量を最大にしても字幕がないと内容を追えない、静かな場所では会話できるのに騒がしい場所では全く聞き取れない——こうした経験は、感音難聴を持つ方に非常によく見られます。
✓ 伝音難聴との違い
難聴は大きく「伝音難聴」と「感音難聴」、そして両者が混在する「混合性難聴」に分類されます。
伝音難聴は手術や薬物療法で改善できるケースも多いのに対し、感音難聴は一般的に損傷した内耳の有毛細胞は再生しないとされており、根本的な「治癒」よりも「補助・適応」の支援が中心になります。ただし、突発性難聴のように早期治療で回復が見込める例外もあります。
感音難聴の主な原因
感音難聴の原因は多岐にわたり、発症のタイミングによって「先天性」と「後天性」に大別されます。
✓ 先天性難聴
生まれつき、あるいは新生児期に生じる難聴です。原因の約50〜60%は遺伝的なもので、GJB2遺伝子(コネキシン26遺伝子)変異が最も多く報告されています。残りは母体内での感染(風疹ウイルスなど)、低出生体重、黄疸、出産時の酸素不足なども原因となります。
日本では新生児聴覚スクリーニング(ABR・OAEを用いた検査)が普及し、早期発見・早期療育が可能になっています。言語習得の臨界期(生後6ヶ月〜2歳ごろ)に介入できるかどうかが、その後のコミュニケーション能力の発達に大きく関わります。
✓ 後天性難聴
出生後に発症する感音難聴には、以下のような疾患・要因が関与します。
- 突発性難聴:ある日突然、片耳の聴力が低下する。原因は不明な部分が多いが、内耳の血流障害やウイルス感染が疑われる。発症72時間以内の治療開始が予後に大きく影響する。
- メニエール病(内リンパ水腫):内耳のリンパ液が過剰になることで生じる。反復するめまい・耳鳴り・難聴が三大症状。低音域の感音難聴として現れることが多い。
- 聴神経腫瘍:聴神経に良性腫瘍が生じる疾患。片側性の難聴・耳鳴りで発症することが多い。早期発見が重要。
- 騒音性難聴:長期間にわたる大音量の騒音曝露が原因。高音域(特に4000Hz付近)から聴力が低下するのが特徴。製造業・音楽業界の従事者に多い。
- 加齢性難聴(老人性難聴):加齢に伴い内耳の有毛細胞が徐々に減少することで生じる。両耳性で、高音から聞こえにくくなる傾向がある。
- 薬剤性難聴:アミノグリコシド系抗生物質、抗がん剤(シスプラチンなど)、利尿薬の一部は内耳毒性を持ち、難聴の原因となることがある。
感音難聴の症状と聞こえ方の特徴
感音難聴の聞こえ方にはいくつかの共通した特徴があります。単純に「音が小さく聞こえる」だけではなく、音の「質」が変わるという点が重要です。
補充現象(リクルートメント)とは、感音難聴に特有の症状で、小さな音は聞こえないのに、少し大きくなると急に不快なほど大きく感じられるという現象です。「もう少し大きな声で」と頼んだ相手が声を上げた瞬間、今度は「うるさい」と感じる——この矛盾した体験は、感音難聴の方の人間関係に摩擦を生みやすく、精神的な負担にもなります。
✓ 難聴の程度(等級)と日常生活への影響
聴力の低下は純音聴力検査(後述)によって測定され、dB(デシベル)単位で表されます。程度に応じておおよそ4段階に分類されます。
感音難聴の検査・診断方法
感音難聴の診断は主に耳鼻咽喉科で行われます。「最近聞こえが悪い」「耳鳴りが続いている」と感じたら、できるだけ早めに受診することが重要です。なぜなら、突発性難聴のように時間との勝負になる疾患が含まれるからです。
診断では主に以下の検査が行われます。まず純音聴力検査(オージオグラム)で各周波数の音をどの音量から聞き取れるかを測定し、聴力損失のパターンを把握します。次に語音明瞭度検査で、言葉をどの程度正確に聞き取れるかを評価します。補充現象の有無を確認する検査(SISI検査、ABLB検査など)も、感音難聴の特定に有用です。
原因が疑われる場合は、MRI検査(聴神経腫瘍の確認)、血液検査(ウイルス感染・自己免疫疾患の除外)なども実施されます。特に片耳だけの難聴は、背後に重大な疾患が潜んでいる可能性があるため、MRI検査が推奨されます。
感音難聴の治療・対処法
感音難聴に対するアプローチは、原因や程度によって異なります。「治す」ことが難しい場合も多いですが、「聴力を活かす」「失われた機能を補う」という方向での支援が確立されています。
✓ 補聴器
残存聴力がある場合、補聴器は第一選択肢となります。ただし、感音難聴における補聴器は「音を大きくするだけ」ではありません。現代の補聴器は特定の周波数帯域を選択的に増幅し、背景雑音を抑制し、言葉の聞き取りやすさを最大化するデジタル処理を備えています。補聴器の効果は装用直後からではなく、数週間〜数ヶ月かけて脳が新しい聴覚入力に適応することで向上します。このリハビリ的な側面を理解することが、補聴器を諦めないための重要な視点です。
✓ 人工内耳
高度〜重度の感音難聴で補聴器の効果が不十分な場合、人工内耳(コクレアインプラント)が選択肢となります。蝸牛内に電極を埋め込み、残存する聴神経を直接電気刺激することで音の知覚を可能にします。成人でも効果が期待できますが、聴覚リハビリテーションとの組み合わせが前提となります。2014年以降、日本では成人の適応基準が緩和され、より多くの方が手術を受けられるようになっています(参考:日本コクレア)。
✓ 最新治療の動向
再生医療や遺伝子治療の研究も進んでいます。有毛細胞の再生を目指す研究(アデノ随伴ウイルスベクターを用いた遺伝子治療など)は、国内外の研究機関で臨床試験が始まっています。現時点では臨床応用には至っていませんが、「感音難聴は治らない」という常識が将来的に変わりうる分野として注目されています。突発性難聴については、発症後72時間以内のステロイド治療(内服または点滴)が現在の標準治療であり、早期受診の重要性は変わりません。
感音難聴が仕事に与える影響と職場での工夫
感音難聴のある方が働く上でのハードルは、聴力損失の数値だけでは語れません。同じ程度の聴力低下でも、職種・職場環境・コミュニケーションの頻度によって困難さは大きく変わります。
✓ 職場で起きやすい困りごと
複数人での会議、電話対応、マスク着用下でのコミュニケーション、騒がしい作業現場——これらはいずれも感音難聴のある方にとって大きな負担です。特に電話は、視覚情報(口の動き・表情)を補えないため、最も苦手とする場面の一つに挙げられます。また、指示の聞き間違いによるミスを繰り返すと、職場での評価が下がったり、自己肯定感が損なわれたりという二次的な問題にもつながります。
一方、テキストベースのコミュニケーション(チャット・メール・ドキュメント共有)が中心の職種では、こうした困難が大幅に軽減されます。近年のリモートワーク拡大とテキストコミュニケーションへのシフトは、感音難聴のある方にとって就労環境の選択肢を広げるポジティブな変化とも言えます。
✓ 職場での合理的配慮の具体例
2016年施行の「障害者差別解消法」および「障害者雇用促進法」の改正により、事業者には合理的配慮の提供が義務(または努力義務)とされています。感音難聴のある方が職場で依頼できる配慮の例としては、口頭指示をテキスト・文書でも併用すること、会議内容の議事録共有、電話対応を免除して代わりにメール・チャット対応を担うこと、席の位置を会話が聞き取りやすい場所へ変更すること、磁気ループや遠隔情報保障(UDトーク等のリアルタイム字幕アプリ)の導入、などが挙げられます。
ITスキルの習得が感音難聴のある方の就労の幅を広げる理由
感音難聴のある方が「聴覚に依存しない働き方」を実現するうえで、ITスキルの習得はひとつの実践的な選択肢です。プログラマー、Webデザイナー、データアナリスト、動画編集者——これらの職種はいずれも、業務の大部分をテキストや視覚情報で完結させられます。
重要なのは、ITスキルは「聴覚の弱みをカバーする手段」であると同時に、集中力の高さや細部への注意力など、感音難聴のある方が持ちやすい強みを活かせる分野でもある点です。聴覚に頼れない環境で育った方が視覚情報処理に優れることは研究でも示されており(Bavelier & Neville, 2002など)、この特性はプログラムのバグ発見やデザインの精査といった業務で強みに変わりえます。
株式会社プラスイノベーションが運営する就労継続支援B型事業所「ワークリンク尼崎」では、ITやパソコン業務に特化した作業支援を提供しています。データ入力・Excel作業、SNS運用、ホームページ制作、動画編集補助など、テキストベースで進められる業務を通じてITスキルを実践的に積み上げられる環境です。在宅勤務にも対応しており、通勤そのものの負担が高い方にも利用しやすい体制となっています。
※まずはお気軽にご連絡ください
感音難聴のある方が活用できる支援制度
感音難聴と診断された場合、医療費の負担軽減や就労支援など、さまざまな制度を利用できる可能性があります。主なものを整理します。
✓ 身体障害者手帳(聴覚障害)
両耳の聴力がそれぞれ70dB以上(あるいは片耳90dB以上かつもう片耳50dB以上)の場合、身体障害者手帳(聴覚障害)の取得が可能です。等級は2〜6級に分類され、等級に応じて医療費の助成、補聴器購入費の補助(市区町村の補装具費支給制度)、交通機関の割引、NHK受信料の免除などが受けられます。まずは居住地の市区町村窓口または耳鼻咽喉科に相談してください。
✓ 補聴器の補助制度
身体障害者手帳取得者を対象とした補装具費支給制度のほか、手帳の取得に至らない軽度・中等度難聴の子どもに対する補聴器補助を実施している自治体も増えています。また、労災認定を受けた騒音性難聴については労働者災害補償保険による給付が受けられる場合があります。補聴器は高額な医療機器であるため、制度を知っているかどうかが家計への影響を左右します。
✓ 就労支援関連の制度・機関
障害者手帳を持つ方を対象とした就労支援として、ハローワークの「障害者専門窓口」、障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)、就労移行支援事業所、就労継続支援A型・B型事業所などがあります。就労移行支援事業所では、一般就労に向けた職業訓練と就職活動の支援を最長2年間受けられ、訓練中の生活費については障害年金や生活保護との併用も可能です。
「聴こえにくさ」を抱えながら働く——株式会社プラスイノベーションへのご相談
株式会社プラスイノベーションは、尼崎市を拠点に「弱みを強みに変える」をコンセプトとした障害支援・IT人材育成サービスを展開しています。感音難聴のある方が直面する「音声コミュニケーションが前提の職場環境」という課題に対し、ITスキルの習得と、テキストベースで仕事を完結できる就労環境の構築を支援しています。
就労継続支援B型「ワークリンク尼崎」では、データ入力・Web制作・動画編集など聴覚に依存しないIT業務を通じてスキルアップしながら工賃を得られる環境があります。在宅勤務対応、心理専門スタッフ(臨床心理士・公認心理士)によるカウンセリングも整っており、体調の波に合わせた柔軟な働き方が可能です。
また、自立訓練校「CYBER TECH ACADEMY(サイバーテックアカデミー)」では、最長2年間のIT就労訓練を通じて、Webデザイン・プログラミング・オフィス系業務のスキルを段階的に習得できます。作業療法士が生活面からも支援するため、就労準備に不安のある方でも安心してスタートできます。
「うつの状態に合わせて無理なく働けるだけでなく、不安なときにはオンラインで心理カウンセラーさんが話を聞いてくれるので、心の支えにもなっています。」
※「聞こえにくさ」に関するご相談もお気軽にどうぞ
まとめ
感音難聴は、内耳から脳への聴覚経路に生じる障害であり、「音が届かない」伝音難聴とは異なり、「届いた音をうまく処理できない」という特徴があります。原因は先天性から後天性までさまざまで、突発性難聴のように早期治療が回復を左右するケースもあれば、補聴器や人工内耳で生活の質を高めることが目標となるケースもあります。
日常生活や就労への影響は軽視できませんが、合理的配慮の活用、ITスキルの習得による「聴覚に依存しない働き方」の構築、各種支援制度の活用によって、できることの幅は着実に広がっています。大切なのは、「難聴があるからできない」ではなく「どうすればできるか」という視点で環境と戦略を整えることです。
聴こえにくさを抱えながら就労や自立を目指す方、またそのお子さんを支えるご家族の方は、ぜひ一度、株式会社プラスイノベーションへご相談ください。ITを通じて、その人ならではの強みを仕事に繋げるサポートをしています。