「こだわり」の意味とは?発達特性における理解と向き合い方
「こだわりのコーヒー」「シェフこだわりの一品」といった表現を、私たちは日常的に耳にします。一方で「そんなことにこだわらなくても」という否定的な文脈で使われることもあります。同じ「こだわり」という言葉が、なぜこれほど異なる印象を与えるのでしょうか。特に発達障害のある方の特性として語られる「こだわり」には、どのような意味があり、どう向き合っていけばよいのでしょうか。
本記事では、言葉としての「こだわり」の変遷を紐解きながら、発達特性における「こだわり」の本質的な理解と、それを強みに変えていく視点をお伝えします。
「こだわり」という言葉の本来の意味
「こだわり」という言葉は、もともと否定的な意味合いで使われていました。デジタル大辞泉によれば、「拘泥(こうでい)」つまり些細なことに必要以上に気を取られ、固執することを指していたのです。「そんな小さなことにこだわるな」という表現に、その本来の意味が色濃く残っています。
✓ ネガティブな意味からポジティブな意味へ
ところが1990年代頃から、状況が大きく変わってきました。「こだわりの味」「職人のこだわり」といった表現が、飲食業界や製造業のマーケティングで頻繁に使われるようになったのです。文化庁の国語に関する世論調査では、2002年の時点で「こだわり」を肯定的な意味で使う人が増加していることが報告されています。
この変化について、光村図書の校閲課は興味深い指摘をしています。「こだわりの一品」という表現には、確かに細部まで妥協せず追求する姿勢という肯定的な側面があります。しかし同時に、「そこまで気にしなくても」という本来の否定的なニュアンスも完全には消えていません。つまり「こだわり」は、マニアックで常識の範囲を超えているからこそ価値があるという、両義的な意味を持つ言葉へと進化してきたといえるでしょう。
✓ 現代における「こだわり」の使われ方
現代では、「こだわり」という言葉に代わる適切な表現が見つからないという実情があります。Yahoo!知恵袋などでも、言語のプロフェッショナルたちが「特に力のこもった」「思い入れのある」「誰にも真似できない」といった候補を挙げていますが、いずれも「こだわりの」という一言の持つニュアンスを完全には置き換えられていません。
結果として、本来の否定的な意味から派生した「第二義」として、肯定的な「こだわり」が広く受容されるに至りました。ただし、格調高い文章や真剣な報道では、今でも「こだわりの」だけで済ませることは避けられる傾向にあります。言葉の持つ複雑な背景を理解した上で、文脈に応じて使い分けることが求められているのです。
発達障害における「こだわり」の特性
発達障害の文脈で語られる「こだわり」は、言葉の意味とはまた異なる側面を持ちます。特にASD(自閉スペクトラム症)において、「こだわり」は診断基準の一つにもなっている中核的な特性です。これは単なる性格の問題ではなく、脳の情報処理の特性から生じる行動パターンといえます。
✓ ASD(自閉スペクトラム症)のこだわり
ASDの方に見られるこだわりには、いくつかの特徴的なパターンがあります。まず「同一性へのこだわり」です。毎日同じ道順で通学する、食事のメニューや食器の位置が変わると不安になる、予定の変更に強い抵抗を示すといった行動が見られます。これは変化に対する不安から、環境の予測可能性を保とうとする防衛的な反応と理解できます。
次に「特定の興味・関心への集中」があります。電車の時刻表、恐竜の名前、プログラミング言語など、特定の分野に驚くほど詳しい知識を持つことがあります。一般的には「マニアック」と捉えられがちですが、この集中力と記憶力は適切な環境では大きな強みになります。実際、IT業界では発達特性を持つ方の中に、システムの細部まで把握できる優秀なエンジニアが数多く活躍しています。
さらに「感覚へのこだわり」も重要な特性です。特定の服の素材しか着られない、音や光に敏感で集中できない、食べ物の食感にこだわるといった感覚過敏は、本人にとっては深刻な問題です。しかしこれも、環境を調整することで大幅に改善できる課題といえます。
✓ ADHDにおけるこだわりの特徴
ADHD(注意欠如・多動症)でも、こだわりの特性が見られることがあります。ただしASDとは異なり、ADHDのこだわりは「過集中」という形で現れることが多いのが特徴です。興味のあることには何時間でも没頭できる一方、興味のないことには全く集中できないという極端な傾向が見られます。
また、ADHDでは「完璧主義」としてのこだわりも見られます。細部にこだわりすぎて作業が進まない、何度も見直して提出が遅れるといった困りごとにつながることもあります。これは脳の実行機能の特性から、優先順位をつけることや「ほどほど」で切り上げることが難しいためです。
✓ こだわりの具体例
発達特性のある方のこだわりは、日常生活のあらゆる場面で見られます。生活面では、決まった時間に決まったことをする、物の配置が変わると落ち着かない、特定のブランドの製品しか使えないといった例があります。
学習面では、自分のやり方を変えられない、間違いを極端に嫌う、完璧にできないと提出できないといった特徴が見られます。これらは一見すると「融通が利かない」と映りますが、裏を返せば自分なりの最適な方法を追求し、高い品質基準を保とうとする姿勢ともいえます。
コミュニケーション面では、話題が特定の興味関心に偏る、会話のルールにこだわる、冗談や比喩を文字通りに受け取るといった傾向があります。これは言語処理や社会的認知の特性によるもので、適切な支援と理解があれば十分にコミュニケーションを取ることができます。
「こだわり」を強みに変える視点
発達特性における「こだわり」は、環境と視点を変えることで大きな強みになります。特にIT分野では、発達特性のある方の持つこだわりの力が高く評価されています。なぜこだわりが強みになるのか、具体的に見ていきましょう。
✓ IT分野で活かせるこだわりの力
プログラミングやシステム開発の現場では、細部へのこだわりが品質を左右します。コードの一文字の違いでシステムが動かなくなることもあるため、些細な違いに気づく力、ルールを正確に守る力、同じパターンを見つけ出す力が極めて重要になります。
実際、経済産業省の調査によれば、IT業界は2030年までに最大で約79万人の人材不足が予測されています。一方で、発達特性のある方の中には、システムの論理構造を直感的に理解できる、バグを見つけるのが得意、繰り返しの作業でも集中力を維持できるといった能力を持つ人が少なくありません。これは、こだわりの特性が適切に活かされている例といえるでしょう。
Webデザインの分野でも、色彩やレイアウトの微妙な違いにこだわる感性は大きな武器になります。ピクセル単位での調整に集中できる、配色の組み合わせを追求できる、細部のクオリティにこだわれるといった特性は、プロのデザイナーに求められる資質そのものです。
✓ 職業選択におけるこだわりの活用
こだわりを強みに変えるには、その特性が活きる職種を選ぶことが重要です。データ入力やチェック業務では、細部への注意力と正確性が求められます。ミスを許さない姿勢は、むしろ評価される特性となります。
研究職や専門職でも、一つのテーマを深く追求できるこだわりは大きな強みです。誰も気づかなかった課題を発見する、膨大なデータの中から規則性を見つける、長期間にわたって同じ研究を継続できるといった能力は、研究の成果に直結します。
クリエイティブ分野では、独自の視点とこだわりが作品の個性になります。イラストレーター、音楽家、ライターといった職種では、一般的でない視点や表現へのこだわりこそが、その人にしか生み出せない価値となるのです。
こだわりが強いことで生じる困りごと
こだわりが強みになる一方で、日常生活や仕事の場面では困りごとにつながることもあります。これらの課題を理解することで、適切な対応策を考えることができます。
✓ 日常生活での課題
日常生活では、予定変更への対応が大きな課題になります。急な予定の変更でパニックになる、いつもと違う道順だと不安が強くなる、予定していたことができないと一日中気持ちが切り替えられないといった状況は、本人にとって強いストレスです。
また、時間管理の困難さも見られます。興味のあることに集中しすぎて時間を忘れる、完璧にやろうとして時間がかかりすぎる、優先順位がつけられず全てに同じ労力をかけてしまうといった傾向があります。これは実行機能の特性によるもので、タイマーの活用や視覚的なスケジュール管理といった具体的な工夫で改善できることが分かっています。
✓ 仕事での課題
職場では「こだわりが強い人は仕事ができない」という誤解が生まれることがあります。これは、こだわりの特性が職場環境や業務内容とミスマッチを起こしている状態です。細部にこだわりすぎて納期に間に合わない、完璧を求めすぎて提出できない、自分のやり方を変えられず協調性がないと見られるといった課題が生じます。
しかし、これらは本人の能力の問題ではありません。業務の優先順位を明確にする、完成度の基準を具体的に示す、本人の得意な作業と苦手な作業を見極めるといった環境調整で、大きく改善できることが多いのです。実際、適切な配置と理解のある環境では、こだわりの強さが高い成果につながる事例が数多く報告されています。
コミュニケーション面でも課題が生じることがあります。自分の興味関心について延々と話してしまう、相手の反応を読み取れず会話が一方的になる、暗黙のルールが理解できず誤解されるといった状況です。これらは社会的コミュニケーションの特性によるもので、ソーシャルスキルトレーニング(SST)によって改善可能な部分が多くあります。
こだわりとうまく付き合う方法
こだわりの特性と上手に付き合うには、環境調整と本人の工夫、そして周囲の理解という三つの視点が必要です。それぞれについて、具体的な方法を見ていきましょう。
✓ 環境調整のポイント
環境調整で最も重要なのは、予測可能性を高めることです。スケジュールを視覚的に提示する、変更がある場合は事前に伝える、ルーティンを確立するといった工夫が効果的です。特に、急な変更が避けられない場合は、代替案を複数用意しておく、変更の理由を丁寧に説明するといった配慮が不安を軽減します。
感覚面の配慮も重要です。音や光に敏感な場合は、静かな環境を用意する、照明を調整する、イヤーマフやサングラスの使用を認めるといった対応が考えられます。服の素材にこだわりがある場合は、制服の素材を変更する、私服での通学や勤務を許可するといった柔軟な対応が本人の負担を大きく減らします。
作業環境の整備では、物の配置を固定する、作業スペースをパーテーションで区切る、デジタルツールを活用して情報を整理するといった方法があります。特にIT機器の活用は、発達特性のある方にとって大きな助けになります。タスク管理アプリ、リマインダー、音声入力といったツールは、こだわりの特性を活かしながら苦手な部分を補う効果的な方法です。
✓ 本人ができる工夫
本人自身でできる工夫としては、まず自分の特性を理解することが第一歩です。どんな場面でこだわりが強く出るか、何に集中しすぎてしまうか、どんな環境だと落ち着けるかを知ることで、対策を立てやすくなります。
時間管理の工夫では、タイマーを活用した「ポモドーロ・テクニック」が効果的です。25分作業して5分休憩するというサイクルを繰り返すことで、集中しすぎを防ぎながら生産性を保つことができます。また、完璧主義への対策として、「80%の完成度で一旦提出する」「3回見直したら終わり」といった具体的なルールを設定することも有効です。
コミュニケーション面では、自分の特性を相手に伝えることも選択肢の一つです。「興味のある話題について話しすぎてしまうことがあるので、長くなったら教えてください」と予め伝えておくことで、相手も対応しやすくなります。
✓ 周囲のサポート
家族や職場の同僚など、周囲の人ができるサポートも重要です。まず、こだわりの特性を否定せず、その背景にある不安や特性を理解する姿勢が大切です。「そんなことにこだわらなくても」という言葉は、本人にとっては大きな傷つきになることがあります。
具体的なサポートとしては、予定変更を伝える際に十分な時間的余裕を持つ、指示は具体的かつ視覚的に示す、できたことを積極的に評価するといった方法があります。特に、成功体験を積み重ねることで自己肯定感が高まり、柔軟性も育ちやすくなることが分かっています。
職場では、業務の優先順位を明確に示す、完成度の基準を数値化する、定期的なフィードバックを行うといった構造化されたサポートが効果的です。また、本人の得意な作業を活かせる配置を考えることで、こだわりが強みとして発揮されやすくなります。
株式会社プラスイノベーションのサポート
株式会社プラスイノベーションでは、発達特性のある方の「こだわり」を強みに変える支援を行っています。2016年の設立以来、IT療育という独自のアプローチで、子どもから大人まで一貫したサポート体制を構築してきました。
IT療育型放課後等デイサービス「Kid'sTECH」では、プログラミングやデザインといったIT技術を療育ツールとして活用しています。細部へのこだわりが求められるプログラミングは、発達特性のある子どもたちの強みを活かせる分野です。実際、ゲーム開発コース、ITプログラミングコース、ITデザインコースの3つのコースで、一人ひとりの特性に合わせた学びを提供しています。
高校生以上の方には、就労型自立訓練事業「CYBER TECH ACADEMY」があります。最長2年間のIT技術訓練と生活訓練を通じて、IT業界での就労を目指します。現役のエンジニアやデザイナーが指導にあたり、実践的なスキルを習得できる環境が整っています。
さらに、就労継続支援B型事業「ワークリンク尼崎」では、IT・パソコン業務に特化した作業を提供しています。在宅勤務にも対応しており、自分のペースで働くことができます。臨床心理士や公認心理士が常駐し、心理面でのサポートも充実しています。
不登校や学校になじめないお子さまには、尼崎市認定フリースクール「MIRAIZ」があります。ドルトンプラン×イエナプラン教育を取り入れ、子ども主体の探求型学習を実践しています。学校との連携により出席扱いにも対応しており、高校卒業資格の取得から大学進学まで、一人ひとりの進路に合わせたサポートを行っています。
2025年11月には、福祉型通信制高校「IN学院」も開校しました。福祉サービスを活用しながら高校卒業資格を取得できる、国内でもアタラシイ取り組みです。探求型・プロジェクト型学習を通じて、「ジブンらしく生きる力」を育んでいます。
これらのサービスに共通しているのは、発達特性を「弱み」ではなく「強み」として捉え、その可能性を最大限に引き出すという理念です。こだわりの強さは、適切な環境と支援があれば、将来のキャリアにつながる大きな武器になります。
お子さまの「こだわり」について悩んでいる保護者の方、自分の特性を活かした働き方を探している方は、ぜひ一度ご相談ください。無料相談・見学も随時受け付けています。一人ひとりの特性に合わせた最適な支援プランを、専門スタッフと一緒に考えていきましょう。
※まずはお気軽にご相談ください