マルチタスクができない原因と、発達特性を活かした対処法
仕事中に複数の業務を同時進行しようとすると、頭が混乱してしまう。一つのことに集中していたら、他の大切なタスクを忘れてしまった。そんな経験はありませんか。「マルチタスクができない」と感じている方は決して少なくありません。実は、人間の脳は本来、複数のことを同時に処理することが得意ではないのです。特に発達障害の特性を持つ方にとって、マルチタスクの困難さは日常生活や仕事に大きな影響を及ぼすことがあります。
しかし、マルチタスクができないことは決して「能力不足」ではありません。脳の特性を理解し、適切な対処法を身につけることで、むしろその特性を強みに変えることができます。この記事では、マルチタスクができない原因を脳科学や発達特性の観点から解説し、実践的な対処法をご紹介します。
そもそもマルチタスクとは何か
マルチタスクとは、複数の作業を同時並行で進めること、あるいは短時間で頻繁に切り替えながら処理することを指します。例えば、メールを確認しながら電話対応をする、資料作成の合間に別のプロジェクトの進捗を確認する、といった業務スタイルです。
一見効率的に見えるマルチタスクですが、実は多くの研究で生産性を低下させることが明らかになっています。スタンフォード大学の研究によれば、マルチタスクを頻繁に行う人は、単一のタスクに集中する人と比べて、課題の遂行速度が遅く、エラー率も高いという結果が出ています。
マルチタスクができない脳科学的な理由
✓ 人間の脳は本来シングルタスク処理が基本
神経科学の研究から明らかになっているのは、人間の脳は同時に複数の認知的タスクを処理することができないという事実です。私たちが「マルチタスクをしている」と感じるとき、実際には脳内で高速なタスク切り替え(タスクスイッチング)が行われています。
この切り替えには「スイッチングコスト」と呼ばれる認知的負荷がかかります。タスクAからタスクBへ切り替えるたびに、脳は前の作業の文脈を保存し、新しい作業の文脈を読み込む必要があります。カリフォルニア大学アーバイン校の研究では、このスイッチングにかかる時間が積み重なると、1日あたり約2.1時間もの生産性の損失につながると報告されています。
✓ 前頭前野の役割とワーキングメモリの限界
マルチタスク処理に深く関わっているのが、脳の前頭前野です。前頭前野は実行機能を司り、計画立案、優先順位の判断、注意のコントロールなどを担当しています。そして、一時的に情報を保持しながら処理を行う「ワーキングメモリ」もここで機能しています。
ワーキングメモリの容量には限界があり、一般的に成人で7±2個の情報単位(チャンク)しか同時に保持できないとされています。複数のタスクを抱えると、この限られたワーキングメモリがすぐに飽和状態になります。すると、情報の取りこぼしやミス、判断力の低下が生じるのです。
発達障害とマルチタスクの関係
✓ ADHDの特性とマルチタスクの困難さ
ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つ方は、注意の持続や切り替えに関わる脳の神経伝達物質のバランスが定型発達の方とは異なることが知られています。特にドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の調整機能に特徴があり、これが実行機能に影響を与えます。
具体的には、複数のタスク間で注意を適切に配分することが難しかったり、一つのことに過集中してしまい他のタスクが見えなくなったりします。また、優先順位をつけることに困難を感じることも多く、すべてのタスクが同じ重要度に見えてしまうという特性もあります。
✓ ASDの特性とタスク切り替えの難しさ
ASD(自閉スペクトラム症)の特性を持つ方の場合、認知の柔軟性に関わる特性がマルチタスクの困難さと関連しています。一つのやり方や手順に強くこだわる傾向があったり、予期しない変更に対応することにストレスを感じたりすることがあります。
また、ASDの方は細部への注意が非常に優れている一方で、全体像を俯瞰することが苦手な場合があります。そのため、複数のタスクを同時に管理しようとすると、それぞれの詳細にこだわりすぎてしまい、全体のバランスが取れなくなることがあるのです。
マルチタスクが苦手な人に見られる特徴
マルチタスクが苦手な方には、いくつかの共通する特徴が見られます。これらは決して欠点ではなく、異なる認知スタイルの表れです。
✓ 完璧主義的な傾向がある
一つひとつの作業を完璧にこなしたいという思いが強い方は、マルチタスクに苦手意識を持つことがあります。複数の作業を同時進行すると、それぞれが中途半端になってしまうのではないかという不安から、一つずつ丁寧に完了させたいと感じるのです。
この特性は、品質にこだわる仕事や、正確性が求められる業務では大きな強みになります。実際、医療や法律、研究開発といった分野では、むしろシングルタスクで深く集中できる能力が高く評価されます。
✓ こだわりが強く、一つのことに没頭しやすい
興味のあることや取り組んでいる作業に深く没頭する「過集中」の特性を持つ方もいます。これは創造的な仕事やプログラミング、デザインといった分野では非常に価値のある能力です。
ただし、この没頭状態から別のタスクへ切り替えることに大きなエネルギーを要します。一度集中モードに入ると、周囲の声が聞こえなくなったり、時間の感覚がなくなったりすることもあるでしょう。これは脳が一つの処理に深く入り込んでいる状態であり、その分だけ切り替えのコストが高くなるのです。
✓ 優先順位をつけることが難しい
複数のタスクを前にしたとき、どれから手をつけるべきか判断に迷ってしまう。すべてが同じくらい重要に見えてしまう。あるいは逆に、本当は重要ではないタスクに時間をかけすぎてしまう。こうした経験がある方も多いでしょう。
これは前頭前野の実行機能と関連しており、複数の情報を同時に評価して比較するプロセスに負荷がかかっているサインです。外部からの明確な基準や構造化されたシステムがあれば、この困難さは大きく軽減されます。
マルチタスクができない時の実践的な対処法
マルチタスクの困難さに対しては、脳の特性を理解した上で、実践的な工夫を取り入れることが効果的です。ここでは、すぐに実践できる具体的な方法をご紹介します。
✓ タスクの細分化とシングルタスク化
大きなプロジェクトや複雑な業務は、できるだけ小さな単位に分解しましょう。「資料作成」というタスクを「データ収集」「図表作成」「テキスト執筆」「校正」といった具体的なステップに分けることで、一つひとつに集中しやすくなります。
この手法の利点は、作業の進捗が可視化されることです。小さな達成を積み重ねることで達成感が得られ、モチベーションの維持にもつながります。また、途中で中断せざるを得ない場合でも、どこまで完了したかが明確なため、再開時の混乱が少なくなります。
✓ 時間を区切った集中タイム(タイムボクシング)
「ポモドーロ・テクニック」として知られる手法ですが、25分間は一つのタスクだけに集中し、5分間休憩するというサイクルを繰り返します。発達特性のある方の場合、この時間配分を個人に合わせて調整することが重要です。
例えば、過集中の傾向がある方は45分や60分といった長めの時間設定の方が合うかもしれません。逆に注意が散りやすい方は15分という短い単位から始めてみるのも良いでしょう。タイマーを使うことで、「今は この作業だけに集中する時間」という明確な境界が生まれ、他のタスクへの気がかりを一時的に保留できます。
✓ 外部記憶としてのツール活用
ワーキングメモリの限界を補うためには、タスク管理ツールやメモアプリといった「外部記憶」を積極的に活用しましょう。頭の中だけで複数のタスクを記憶しようとすると、認知的負荷が高まり、本来の作業に集中できなくなります。
デジタルツールとしては、TrelloやNotionといったビジュアル的に分かりやすいツールが効果的です。タスクをカードとして配置し、「未着手」「進行中」「完了」といったステータスごとに移動させることで、全体の進捗が一目で把握できます。視覚的な情報処理が得意な方には特に有効な方法です。
✓ パーキングロット思考の実践
「パーキングロット(駐車場)思考」とは、今取り組んでいるタスク以外の気がかりや思いつきを一時的に「駐車」しておく手法です。作業中に別のタスクのことが頭に浮かんだら、すぐに小さなメモに書き出し、専用の場所(物理的なメモ帳やデジタルのメモアプリ)に保管します。
こうすることで、「忘れてしまうのではないか」という不安から解放され、目の前のタスクに意識を戻すことができます。作業が一段落したら、パーキングロットを確認し、優先順位に応じて対応すれば良いのです。
✓ 環境調整による集中力の確保
物理的な環境も、マルチタスクの困難さに大きく影響します。視覚的な刺激が多い環境では、注意が散りやすくなります。デスク周りをシンプルに保ち、今取り組んでいるタスクに関連するもの だけを置くようにしましょう。
また、聴覚過敏の傾向がある方は、ノイズキャンセリングイヤホンやホワイトノイズの活用も効果的です。周囲の雑音による注意の中断を防ぐことができます。デジタル環境でも、不要な通知をオフにする、複数のブラウザタブを開きすぎないといった工夫が重要です。
IT・プログラミング学習がマルチタスク能力を高める理由
意外に思われるかもしれませんが、プログラミングやIT学習は、マルチタスクが苦手な方の認知機能向上に効果的なアプローチの一つです。これは、プログラミングという活動が持つ独特の構造と関係しています。
✓ 構造化された思考プロセスの獲得
プログラミングでは、大きな問題を小さな関数やモジュールに分解し、それぞれを順序立てて処理していきます。これは、タスクの細分化と優先順位づけという、マルチタスク対処の基本スキルそのものです。
コードを書く過程で、「この処理の前にあの処理が必要だ」「この部分は後回しにできる」といった判断を繰り返します。こうした経験を通じて、論理的な思考パターンと優先順位づけのスキルが自然と身につきます。
✓ 即座のフィードバックによる学習効果
プログラミングの大きな特徴は、コードを実行すればすぐに結果が分かることです。エラーが出れば何が問題だったのかが明確になり、成功すれば視覚的に動作を確認できます。このような即時的なフィードバックは、発達特性のある方の学習において非常に効果的です。
曖昧さが少なく、原因と結果の関係が明確な環境は、試行錯誤を通じた学びを促進します。そして、この過程で培われるのは、エラーを恐れずにトライアンドエラーを繰り返す姿勢と、問題を分解して解決するスキルです。
✓ 視覚的な情報処理の活用
多くの発達特性を持つ方は、言語的な情報よりも視覚的な情報の処理が得意です。プログラミング、特にビジュアルプログラミング言語(ScratchやBlocklyなど)は、処理の流れを視覚的に理解できるように設計されています。
ブロックを組み合わせてプログラムを作る過程は、まるでパズルを解くようなもの。視覚的に全体の構造を把握しながら、部分的な処理を組み立てていく経験は、マルチタスクに必要な「全体を見ながら部分を処理する」能力の向上につながります。
発達特性を強みに変えるIT療育という選択肢
マルチタスクの困難さは、見方を変えれば「一つのことに深く集中できる力」「細部にこだわる正確性」「論理的に物事を考える能力」といった強みの裏返しでもあります。特にIT分野においては、これらの特性が大きなアドバンテージとなります。
株式会社プラスイノベーションが運営するKid'sTECH(キッズテック)は、日本初のIT療育型放課後等デイサービスとして、発達障害(ADHD、ASD、LD)のお子さまの特性を強みに変えるプログラミング教育を提供しています。
✓ 個別最適化されたIT療育プログラム
Kid'sTECHでは、お子さま一人ひとりの特性や興味に合わせて、ゲーム開発コース、ITプログラミングコース、ITデザインコースの3つのコースを提供しています。マルチタスクが苦手なお子さまでも、一つひとつのステップを丁寧に積み重ねていける構造化されたカリキュラムが特徴です。
臨床心理士・公認心理師が常駐し、お子さまの認知特性を専門的に評価。その上で、過集中の傾向があるお子さまには深い探求を促すプロジェクト型学習を、注意の切り替えに課題があるお子さまには短時間で達成感が得られるタスク設計を行うなど、きめ細やかな対応を実現しています。
✓ 療育から就労までの一貫した支援体制
プラスイノベーションの特徴は、Kid'sTECHでの療育にとどまらず、高校生年代のフリースクール「MIRAIZ」、18歳以上を対象とした自立訓練事業「CYBER TECH ACADEMY」、さらには就労継続支援B型「ワークリンク尼崎」まで、一貫した支援を提供している点です。
マルチタスクが苦手でも、ITスキルを活かした職種では、むしろその特性が強みになります。システム開発、データ分析、デザイン制作といった業務では、一つのタスクに深く集中できる能力が高く評価されます。実際、CYBER TECH ACADEMYでは、自社のITソリューション事業部での就労機会も提供しており、学んだスキルを直接活かせる環境が整っています。
「学校では多動が激しくじっと座ることができず悩んでいましたが、Kid'sTECHのシンプルな教室環境では集中して過ごすことができています。プログラミングを通じて、息子の新しい可能性を発見できました。」
まとめ:マルチタスクができないことは弱みではない
マルチタスクができないことに悩んでいる方は少なくありませんが、それは決して能力の欠如ではありません。人間の脳は本来、複数のことを同時に処理することが得意ではなく、特に発達特性を持つ方の場合、その傾向がより顕著に現れるだけです。
重要なのは、自分の認知スタイルを理解し、それに合った働き方や学び方を見つけることです。タスクの細分化、時間管理、ツールの活用、環境調整といった具体的な工夫を取り入れることで、マルチタスクの困難さは大きく軽減されます。
そして、一つのことに深く集中できる力、細部へのこだわり、論理的思考といった特性は、IT分野をはじめとする多くの職種で高く評価される強みです。マルチタスクができないことを「直すべき弱点」ではなく、「活かすべき個性」として捉えることが、充実したキャリアと生活への第一歩となります。
発達特性でお悩みの方は、プラスイノベーションにご相談ください
お子さまがマルチタスクに困難を感じている、学校での集団活動になじめない、将来の進路に不安がある。そんな悩みをお持ちの保護者様は、ぜひ一度プラスイノベーションにご相談ください。
私たちは2016年の設立以来、発達障害のあるお子さまの「弱み」を「強み」に変えるIT療育に取り組んできました。臨床心理士・公認心理師をはじめとする専門スタッフが、お子さま一人ひとりの特性を丁寧に評価し、最適な支援プログラムをご提案します。
Kid'sTECHでは、無料の見学・相談を随時受け付けています。実際の教室の雰囲気をご覧いただき、お子さまに合った学びの形を一緒に考えましょう。また、高校生年代のフリースクールMIRAIZ、18歳以上の自立訓練CYBER TECH ACADEMY、就労支援のワークリンク尼崎についても、詳しくご案内いたします。
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